1. 研究の趣旨
日本の保健・医療領域におけるソーシャルワーカー(以下MSWとする)の位置付けについては、21世紀の今日においても、非常に不確定な現状がある。その背景には、第1にMSWの日常の相談援助業務について、診療報酬上の評価がないこと、第2に国家資格として専門職種として位置付けられた社会福祉士や精神保健福祉士の資格を取得していても、保健・医療領域において、その専門性の価値を諮る基盤がないことがあると思われる。近年ようやく精神科領域における精神保健福祉士の評価について認識され始めたところであるが、未だなお一般医療におけるMSW業務は、施設管理者の意向や理解度によるかMSW個人の熱意や努力によって支えられているといっても過言ではない。 さて、ホスピスや緩和ケア領域においては、1997年に全国緩和ケア病棟連絡協議会により施行された「緩和ケア病棟承認施設におけるホスピス・緩和ケアプログラムの基準」によると、[ホスピス・緩和ケアの基本的な考え方]として『ホスピス・緩和ケアは、治癒不可能な疾患の終末期にある患者および家族のクオリティオブライフ(QOL)の向上のために、さまざまな専門家が協力してつくったチームによって行われるケアを意味する』とあり、そのチームについては『チームは患者とその家族を中心とし、医師、看護婦、ソーシャルワーカーなどの専門職とボランティアが参加する』とあり、MSWの役割について明確化されている。しかし、実際は、国の緩和ケア病棟設置基準には、MSWについて明文化された項目はないため、承認施設においても一般病棟との兼務や、設置すらされていない施設もあると認識している。 本調査・研究の最終目標は、日本のホスピス・緩和ケア水準を高め、成熟を目指すために緩和ケア病棟設置基準にMSWの設置について明文化を求めることにある。そのため、ホスピス・緩和ケアにおけるMSW業務のガイドライン作成を目的とする。 2. アンケート調査の目的 ホスピス・緩和ケアにおけるMSW業務のガイドライン作成をめざして、緩和ケア病棟承認施設におけるMSWの実態把握を目的とする。
3. 調査・研究の手法 調査・研究を実施するうえで、全国の緩和ケア病棟承認施設の現任MSWの中から8名を選任し、共同研究者として、アンケート項目の検討および分析に参加していただいた。 共同研究者(敬称略) 田村里子(東札幌病院) 尾方 仁(西群馬病院) 磯崎千枝子(上尾甦生病院) 福地智巴(信愛病院) 伊与田都巳(聖隷三方原病院) 竹久寛子(かとう内科並木通り病院) 橘 直子(山口赤十字病院) 松山 奏(イエズスの聖心病院) 4. 対象と方法 全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会(以下全国連絡協議会とする)A会員施設92施設のMSWを対象としてアンケート調査を行った。92施設の名簿については、全国連絡協議会のご協力を頂いた。(主任研究員正司も個人会員として登録)アンケート用紙の発送にあたっては、92施設それぞれ2種類の内容のアンケート用紙を同封した。1部は[ソーシャルワーカー用]で、1部は[緩和ケア病棟責任者用]とした。アンケート依頼文の記入にあたっての説明に、MSW未配置施設については緩和ケア病棟責任者が回答されるよう限定を行った。 アンケートの内容は、[ソーシャルワーカー用]については、基本的属性項目に次いで、業務について、入院前から、入院中、在宅、死別後という関わりの一連の流れに沿って質問を行った。またボランティア活動についても関わりが深いと推測されるため、質問項目を設けた。また業務内容については、ホスピス・緩和ケアにおいて実際に行われていると推測される業務および今後期待される業務について、具体的提示を行い、選択項目とした。 次に、[緩和ケア病棟責任者用]については,MSWが不在という前提にたっての質問を行った。最も基本的にMSWが行っていると考えられる患者・家族の経済的、心理的、社会的問題へのケアについて誰がどのように関わっているのかについて調査した。また、ホスピス・緩和ケアの中でも必要とされながら、特にチームとしての関わりを要するため取り組みが遅れていると考えられる、悲嘆のケアについて調査を行った。具体的な相談援助業務については、MSWと同一にして、他職種との差異が見られるかどうかについての調査を試みた。また、MSW不在の理由についての意識調査も行った。(表1)
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