Ⅰ 設立経緯と概要
 この度,日本Whole Person Care研究会を創設しました.Whole Person Careとは,カナダ・モントリオールにある,有名な伝統あるマギル大学(McGill University)医学部で開発された教育プログラムです.それは知識を必要とする「治療(Curing)」と知恵を必要とする「癒し(Healing)」の統合を目指しています.これまでの医学教育では,診断・治療を中心に教えてきました.病気を診断・治療し,問題が起きた時にはそれらに対処し,悪いところがあったら元に戻すという問題解決型のアプローチです.この場合,患者は医療従事者に頼り,力は医療従事者にあります.しかし,これだけでは十分ではありません.癒しというもう一つのアプローチが必要となります.これは病気としっかり向き合い,病気と共に人間として成長し,悪いところを元に戻せない場合には,変化を受け容れることを支援することです.この場合,患者自身が力の源になります.癒しは,患者と医療従事者の関係性の中で促され,医療従事者がそれを支援することになります.これが癒しの概念です.Whole Person Careの教育では,治療と癒しの両方をバランスよく提供することのできる医療従事者を育てることが理想です.

 それでは,癒しとは何でしょうか.マウント先生とカーニー先生は,「苦痛と苦悩から高潔性,一体性そして心の平安に移行する人生の質の転換」と定義しています.人間は苦痛や苦悩があっても,それらを超越して成長する可能性を秘めています.たとえ病気が治らなくても,苦痛や苦悩から十分には解放されなくても,成長,発展,自己実現をしていく,人生の質を転換することが出来る力を人間は持っています.それを癒しとしています.

 Whole Person Careは,今までのものとは異なる,新しい見方であり,医療従事者の姿勢を根本的に変えるものです.Whole Personとは,人間全体であって部分ではありません.デカルトの心身二元論以来,身体と心を分けて考えてきました.Whole Person Careでは,心身一如,身体と心が一つであるWhole Personに対して,医療従事者もWhole Personとしてアプローチしていきます.苦悩に対して創造的に向き合い,それが成長や癒しを促す機会となります.これらがWhole Person Careの目指すものです.

 それでは,医療従事者は患者とどのように向き合えばよいのでしょうか.一言で言えば,「自己覚知(Self Awareness)」「自己ケア(Self Care)」「マインドフルネス(Mindfulness)」などの取り組みにより自分自身のWhole Personを調えていく中で,初めて苦悩の中にある患者と向き合うことが可能になります.そして,今この瞬間を大切にすることです.過去や未来のことに囚われず,今この瞬間に医療従事者がWhole Personとして存在し,医療従事者が身に着けている医療技術(外的資源)と,医療従事者と患者自身が持っている潜在力(内的資源)の両者を適切に使うことによって,患者との人間関係が変化し,癒されるのです.「変化させる」のではなく,「変化する」というアプローチです.

 第1回研究会は,8月1日にオンラインで開催されました.参加者は,医師,看護師,薬剤師など医療従事者,教育関係者,学生など多岐にわたり約120名でした.設立趣旨が説明された後,昭和大学 医学教育学講座/内科の土屋静馬先生が,「Whole Person Careのために明日からできること」について講演をしました.土屋先生は,これまでの臨床経験とマギル大学大学院 医療者教育学課程への留学体験を語られました.その後総合討論が行われ,熱心に討議されました.

 日本ホスピス緩和ケア研究振興財団(ホスピス財団)は,2012年より事業の柱の一つとしてWhole Person Careの啓発・普及に取り組んでおり,Whole Person Careの国際セミナーやワークショップを開催しています.

 今後,日本Whole Person Care研究会はホスピス財団と密に連携を図りながら,Whole Person Careの更なる普及・啓発の活動を進めて参ります.次回の第2回日本Whole Person Care研究会は,11月28日午後にオンラインで開催される予定です.参加を希望される方はホスピス財団までお問い合わせ下さい.何卒,宜しくお願い申し上げます.


世話人代表 恒藤 暁


Ⅱ 活動予定と活動報告
第10回日本WPC研究会

  日 時:2024年11月9日(土)13:30~16:30(オンライン開催)
  テーマ:アートがもたらす医療の未来 〜「医療はアート」ってどういうこと!?
  大会長:土屋静馬(昭和大学)

  第1部:13:30〜14:30
  講演1 WPC研究会の経緯、大会主旨説明  土屋静馬(昭和大学)

 


  講演2 アートがもたらす医療の未来
      安次富隆(昭和大学メディカルデザイン研究所 所長・教授/
           多摩美術大学 プロダクトデザイン専攻 教授)

 


  第2部:14:40〜16:30
      グループワーク・討議 「医療はアート」を解き明かす!
      司会:土屋 静馬(昭和大学 国際交流センター 教授)
         大滝 周(昭和大学メディカルデザイン研究所 副所長)



第15回WPC読書会

  日  時:2024年9月13日(金)19:00~20:30 Zoom開催
  テキスト:WPC実践編 第7章〜第9章
  申込フォーム: https://forms.gle/thyAcVZ9MCykjCgt9
  *Whole Person 実践編の第7章〜第9章を読み、
   感じたこと、考えたことを中心に分かち合う会です。
   第7章 Whole Person Careの過程
   第8章 医療のアート
   第9章 死と死の不安
  *事前に該当の章を読んでご参加頂くと理解が深まります。読んでいなくても参加できます。
   また、傍聴のみでも構いません。お気軽にご参加ください。
  *当日は、Zoomで行います。詳細は、申し込みされた方にご連絡致します

  三輪書店オンラインショップ / Whole Person Care 実践編—医療AI時代に心を調え, 心を開き, 心を込める
  (miwapubl.com)


第9回日本WPC研究会

  テーマ 〜Whole Person Careとの出会いと出合い〜
  日   時:2024年3月16日(土)13:00~17:00
  場   所:京都大学大学院医学研究科
  第一部 講演:Whole Person Careとの出会いと出合い
      京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 恒藤 暁
   


  第二部 グループワーク:Self-Compassion & Self-Awareness
      京都大学医学部附属病院 緩和医療科 橋本教正
   


第13回WPC読書会

  日  時:2024年2月9日(金)19:00~20:30 Zoom開催
  テキスト:WPC実践編 第1章〜第3章
  申込フォーム: https://forms.gle/HPsfd7yq6ymiqa9P9
  *Whole Person 実践編の第1章〜第3章を読み、
   感じたこと、考えたことを中心に分かち合う会です。
  *事前に該当の章を読んでご参加頂くと理解が深まります。読んでいなくても参加できます。
   また、傍聴のみでも構いません。お気軽にご参加ください。
  *当日は、Zoomで行います。詳細は、申し込みされた方にご連絡致します

  三輪書店オンラインショップ / Whole Person Care 実践編—医療AI時代に心を調え, 心を開き, 心を込める
  (miwapubl.com)


第11回WPC読書会

  日 時:2023年9月8日(金)19:00~20:30 
  内 容:WPC教育編第9章「臨床実習以降のマインドフルネスにある臨床的調和の実践」、
      第10章「生き生きとした双方向対話型講義の実際」
  申込フォーム:https://forms.gle/kJDQZenfaNcSBmYF8
  *Whole Person教育編の第9章~第10章を読み、感じたこと、考えたことを中心に分かち合う会です。
  *事前に該当の章を読んでご参加頂くと理解が深まります。読んでいなくても参加できます。
   また、傍聴のみでも構いません。お気軽にご参加ください。
  *当日は、Zoomで行います。詳細は、申し込みされた方にご連絡致します


第8回日本WPC研究会

  テーマ:医療者の心を守れ
  日 時:2023年8月19日(土)13:00~17:00
  大会長:三原 弘 先生 (札幌医科大学総合診療医学講座)

  講演1 患者への認知行動療法と医療者へのWPCの異同  井上 真理子(富山大学大学院公衆衛生学講座)

 


  講演2 医療者の心を守り、Whole Person を維持するためにできること
      1.岡澤 林太郎(市立釧路総合病院 緩和ケア内科)

 


      2.津山 雄亮(札幌医科大学保健管理センター)

 


第10回WPC読書会

  日 時:2023年5月12日(金)19:00~20:30 
  内 容:WPC教育編第7章「レジリエンスの育成」、第8章「苦悩への対応」
  申込フォーム:https://forms.gle/R4MPRjLwRKhvURrU8
  *Whole Person教育編の第7章~第8章を読み、感じたこと、考えたことを中心に分かち合う会です。


第7回日本WPC研究会

  テーマ:東洋的視点・西洋的視点
  日 時:2023年3月5日(日)10:00~12:30(オンライン開催)

  講演1:『仏教の瞑想とマインドフルネス』
      蓑輪 顕量 先生 (東京大学大学院人文社会系研究科アジア文化研究専攻インド哲学仏教学講座)
  講演2:『真のWounded Healerになるために』
      栗原 幸江 先生 (NPO法人 マギーズ東京 理事・心理療法士)
  資料および講演音声は非公開です。


第9回WPC読書会

  日 時:2023年2月10日(金)19:00~20:30(オンライン開催)
  WPC教育編『第5章(講義3:深い気づきと医療での意思決定)、第6章(臨床的調和)』 の読書会です。


第6回日本WPC研究会:11月19日(土)WEB開催

  テーマ:医療における”癒し”とレジリエンス 

  講演 Whole Person Care とは 土屋 静馬

 


  講演 医療・教育・職場のレジリエンス 高宮 有介

 


第8回WPC読書会(オンライン)

  日 時:11月11日(金) 19:00~20:30
  内 容:『WPC教育編:マインドフルネスにある深い気づきと臨床的調和』の「第3章 講義1:注意力と深い
      気づき」と「第4章 講義2:コミュニケーションにおける調和のとれた態度」の読書会です。
  問合先:pccenter@kuhp.kyoto-u.ac.jp
  申込フォーム:https://forms.gle/rTRukrivhEowoXPV8


第5回国際オンラインセミナー2022年9月17日(土)開催

  講演 「マインドフルネスにある医療実践の教育
     〜教えるのではなく、気づくようにする〜」  Stephen Liben
 
 


  解説 マインドフルネスにある”深い気づきと臨床的調和〜 Part 1 〜   土屋 静馬
 


  講演 「マインドフルネスにある医療実践の教育
      〜実感することから実践することへ〜」   Stephen Liben
 
 


  解説 マインドフルネスにある医療実践の教育
      〜実感することから実践することへ〜   三好 智子
 


第7回WPC読書会(オンライン)

  日 時:9月9日(金) 19:00~20:30
  内 容:『WPC教育編:マインドフルネスにある深い気づきと臨床的調和』の「第1章 序章」と「第2章 全
      人による教育と学習」の読書会です。教育に携わっていても携わっていなくても、WPCの学びを深
      める機会になります。
  申込フォーム:https://forms.gle/kP1kg1vKeTtFsZT7A


第5回研究会:2022年3月12日(土)WEB開催

  講演「Whole Person Careのレシピ:教育指針と教育方法」 恒藤 暁
 


  グループワーク「セルフ・コンパッション」 橋本教正
 


第4回国際オンラインセミナー

  講演 The Process of Healing in a Chaotic Universe  Tom Hutchindon
 


  混沌とした世界における”癒し”のプロセス   土屋 静馬
 


  Whole Person care and the Art of Medicine   Tom Hutchindon
 


  Whole Person care と医療のアート   三好 智子
 


第4回研究会:2021年8月7日(土)[富山大学で開催]

  講演「Whole Person Care の事例検討とマインドフルネスの教育」 三原 弘
 


  Whole Person Care の視点 三好 智子
 


  マインドフルネス —エクササイズと瞑想によるマインドフルネス— 谷口 純一
 


第3回研究会:2021年3月13日(土)[岡山大学で開催]

  講演「AIとWPC」 松岡 順治
 


  グループワーク「苦悩への対応」 恒藤 暁
 


  パネルディスカッション 「多様なアイデンティティを共有しよう」 飯田 淳子、松川 えり、宮地 由佳
 


第2回研究会:2020年11月28日(土)[オンライン開催]
  『Whole Person Careの秘訣』 恒藤 暁
 


  グループワーク『あなたの人生の優先事項は何ですか』 高宮有介
 


  パネルディスカッション 「Whole Person Careって何⁉-臨床現場からの質問状」
 


第1回研究会:2020年8月1日(土)
  『日本Whole Person Care研究会の設立趣旨』 恒藤 暁
 


  『Whole Person Careのために明日から私たちができること:新しい医療と医療者教育』 土屋 静馬
 


Ⅲ 参考資料
1.『Whole Person Care実践編:医療AI時代に心を調え,心を開き,心を込める』三輪書店, 2020.
 (Hutchinson TA. Whole Person Care. Transforming Healthcare. Springer International Publishing, 2017.)
2.『新たな全人的ケア:医療と教育のパラダイムシフト』青海社, 2016.
 (Hutchinson TA(ed). Whole Person Care. A New Paradigm for the 21st Century. New York: Springer Science +Business Media, 2011.)
3. McGill Programs in Whole Person Care[ https://www.mcgill.ca/wholepersoncare/
4. International Journal of Whole Person Care[ https://ijwpc.mcgill.ca/


Ⅳ 役 員
世話人代表
  土屋 静馬(昭和大学国際交流センター・教授)

世話人副代表
  三好 智子(京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター)
  三原 弘(札幌医科大学医療人育成センター教育開発研究部門)

世話人
  東 光久(奈良県総合医療センター・総合診療科部長)
  池永 昌之(淀川キリスト教病院 緩和医療内科・部長)
  井上真理子(富山大学大学院医学薬学教育部公衆衛生学講座・学生)
  大沢 恭子(京都大学医学部附属病院 緩和医療科・特定病院助教)
  大滝 周(昭和大学 保健医療学部 看護学科・講師)
  越智可奈子(岡山大学学術研究院・医歯薬学域 医療教育センター)
  岡本 禎晃(市立芦屋病院 薬剤科・部長)
  小比賀 美香子(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 総合内科学・講師)
  片岡 仁美(岡山大学病院 ダイバーシティ推進センター)
  片山 英樹(岡山大学病院 緩和支持医療科・助教)
  木内 祐二(昭和大学 薬理科学研究センター・教授)
  藤原 典子(岡山大学病院 腫瘍センター・副看護師長)
  進藤 喜予(市立東大阪医療センター 緩和ケアセンター・センター長)
  髙宮 有介(昭和大学医学部 医学教育学講座・教授)
  田中 佐知子(昭和大学薬学部 薬学教育学講座教育実践学部門・教授)
  谷口 純一(熊本大学病院 地域医療・総合診療実践学寄附講座・特任教授
        /地域医療支援センター・副センター長)
  土屋 静馬(昭和大学国際交流センター・教授)
  恒藤 暁(京都大学大学院医学研究科 名誉教授)
  中山 博文(昭和大学藤が丘病院 腫瘍内科・緩和医療科・講師)
  仁木 一順(大阪大学大学院薬学研究科・助教)
  西﨑 正彦(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科学・講師)
  西屋 克己(関西医科大学 医学教育センター 学長特命教授・センター長)
  朴 順禮(慶應義塾大学 看護医療学部・専任講師)
  橋本 教正(京都大学医学部附属病院 緩和医療科・特定病院助教)
  長谷川友美(福島厚生連 白河厚生総合病院・副看護師長)
  松原 貴子(三重大学医学部附属病院 緩和ケアセンター)
  三原 弘(札幌医科大学医療人育成センター教育開発研究部門)
  三好 智子(京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター)
  毛利 貴子(奈良県立医科大学 糖尿病・内分泌内科学講座・診療助教)
  安田 裕子(岐阜協立大学 看護学部)

 監事
  松岡 順治(岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科)


Ⅴ 会 則
名 称 
  第1条 本会は日本Whole Person Care研究会(Whole Person Care Association Japan:WPC-J)と称する。

目 的
  第2条 本会の目的はカナダ・マギル大学(McGill University)において開発されたWhole Person Careを   普及・啓発することである。

事 業
  第3条 本会は次の事業を行う。
   1.研究会を定期的に開催する。
   2.ニューズレターを定期的に刊行する。
   3.その他本会の目的に沿った事業を行う。

会 員
  第4条 本会は本会の目的に賛同した者および世話人会の認めた者をもって構成する。

役 員
  第5条 本会は次の役員をおく.世話人代表と世話人副代表は世話人の互選とする。
   1.世話人代表 :1名
   2.世話人副代表:2名
   3.世話人   :若干名
   4.監事    :1名

世話人会と事務局
  第6条 本会は世話人会および事務局を持つ。
   1.世話人代表は本会を代表し,その業務を総理する。
   2.世話人副代表は世話人代表を補佐する。
   3.事務局は世話人代表のもとに本会の運営に必要な諸事務を行う。
   4.監事は本会の会計の状況を監査する.
   5.事務局は京都府京都市左京区聖護院川原町53 京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻
    緩和ケア看護学分野( TEL:075-751-4629, E-mail: pccenter@kuhp.kyoto-u.ac.jp )におく。

運 営
  第7条 本会の運営は世話人会によって行う。
   1.世話人会は研究会にあわせて開催する。
   2.世話人会は事業,会計,庶務を審議・決議する。
   3.世話人会は出席した世話人の2分の1以上の同意で決議する。

会費と会計
  第8条 本会は主に研究会参加費によって運営する。
   1.本会の事務局は会計報告書を世話人会に提出し,承認を受ける。
   2.会計年度は毎年4月1日に始まり3月31日に終わることとする。

解 任
  第9条 次のいずれかに該当するときは、世話人会の議決により、解任するものとする。
   1. 職務上の義務違反その他世話人としてふさわしくない行為があったとき。
   2. 法令または会則に著しく違反する行為のあったとき。

附 則
  本会則は2020年8月1日より施行する。