一般情報
ホスピス・緩和ケア
従事者への情報
財団紹介
財団へのアクセス
事業活動について

訪問者数 :
昨日 :
本日 :
(2011年7月1日~)

ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2006年度調査研究報告
もくじへ


緩和ケアにおける代理評価尺度STAS-J症状版の評価者間信頼性の検討<2p>

IV 今後の課題

 Landisのκ係数に関する信頼性の基準では0以上0.2未満がごく軽度の一致(slight)、0.2以上0.4未満が軽度の一致 (fair)0.4以上0.6未満が中等度の一致(moderate)、0.6以上0.8未満が高度の一致(substantial)0.8以上がほぼ 完全な一致(almost perfect)となっている9)。この基準を参照すると、今回結果では、紹介時または紹介後1週間 のどちらかで、ほぼ完全な一致がみられた項目は「嘔気」「嘔吐」「腹部膨満」「せん妄」であった。高度の一致が 見られた項目は「疼痛」「しびれ」「呼吸困難」「咳」「痰」「便秘」「不眠」「抑うつ」「浮腫」であった。中等度 の一致がみられた項目は「全身倦怠感」「食欲不振」「下痢」「眠気」「不安」であった。軽度の一致がみられた項目 は「発熱」であり、ごく軽度の一致がみられた項目は「口渇」であった。全体として、STAS-J症状版は全体として高い 評価者間信頼性を有する尺度であることが示された。

 STAS-J症状版による評価の特徴は、それぞれの症状の日常生活動作への影響で評価する点である。ほぼ完全な一致が みられた項目は、症状が客観的に観察可能なものであり、症状を有する場合に日常生活動作への影響が強い項目である。 高度の一致がみられた項目もその傾向がある。その反面、「口渇」「発熱」などの一致度が低かった項目は、症状を有 することの日常生活動作への影響の程度を判断することが困難である項目である。また、「全身倦怠感」「食欲不振」 「眠気」「不安」などは主観的な症状であることも級内相関係数が低かった要因と考えられる。ただし、一致率に関し ては、完全な一致は40%程度の項目が存在するものの、±1を含めた一致度は71-100%と非常に高いものであった。 これは、±1の一致を許容するのであれば、STAS-J症状版は十分な一致度を有することを示している。STAS-Jが5段階 という簡略な評価尺度であることを考えると、臨床的に±1の一致は許容できると思われる。全体として、一致率のほう が級内相関係数より高い一致を示しているが、症状によっては、症状を有さない(評価が0)の患者が多い項目があり、 その場合、級内相関係数は分布の偏りにより過小評価され、また2人の評価者がともに0を記入するため、一致度が高く なる傾向があることによると考えられる。

 紹介時と紹介1週間後の評価を比較すると、級内相関係数が0.1ポイント以上上昇している項目は、「全身倦怠感(+0.12)」 「咳(+0.11)」「痰(+0.13)」「嘔気(+0.22)」「嘔吐(+0.32)」「食欲不振(+0.17)」「発熱(+0.18)」 「不眠(+0.61)」「浮腫(+0.13)」であった。20項目中9項目で級内相関係数が上昇していることは、患者を経時的 にアセスメントすることにより、評価の一致度が上昇することを示している。特に上昇が大きかった「嘔吐」や「不眠」 に関しては、紹介時の医療者および患者からの情報収集では、完全に把握することが困難であり、経時的にそれらの症状 を観察することによってより妥当な評価が可能となる項目である。しかし、「しびれ(-0.23)」「下痢(-0.33)」 「眠気(-0.16)」「抑うつ(-0.34)」については級内相関係数が0.1ポイント以上低下した。これらの理由は定かでは ないが、しびれや抑うつなどの緩和ケアチームによる医療的介入が行われた場合、医師は薬物等による治療効果を優先して 判断し、看護師は日常生活動作の障害を優先して判断するといったように、評価の視点が医師と看護師で異なっていた 可能性がある。

 本研究は緩和ケアチームに紹介があった患者を対象として行った。緩和ケアチームによる情報収集は医療者から直接、診療 記録への記載、患者・家族からの直接なアセスメントを通じて行われる。毎日全ての患者を訪問するのは困難であり、特に 日常生活動作については情報の欠落が起こりやすい。一般病棟や緩和ケア病棟のように、医療者が患者と接する時間が長く、 情報の伝達がより確実に行われる状況では、より評価の一致度が上昇することが期待される。

 本研究の限界として、研究が2施設の大学病院で行われたことがある。これは一般化可能性の限界を意味する。 今回研究を実施した2施設の医師・看護師は、研究開始前からSTAS-Jの使用経験があった。実際の導入に関しては、有る程度 のトレーニングを行い、STAS-Jによる評価方法の統一をはかることが望ましい。
▲TOP

V 調査・研究の成果等公表予定(学会、雑誌等)

 本研究の成果は第12回日本緩和医療学会総会で発表した。英文論文として投稿中である。さらに、本研究によって作成された STAS-J症状版は、平成19年度に作成されるSTAS-Jスコアリングマニュアル改訂第3版に掲載予定である。


[引用文献]
1) 武田文和. がんの痛みからの解放 -WHO方式がん疼痛治療法- 第2版. 2 ed. 東京: 金原出版; 1996.
2) Okuyama T, Wang XS, Akechi T, et al. Japanese version of the MD Anderson Symptom Inventory: a validation study. J Pain Symptom Manage. 2003; 26(6): 1093-104.
3) Higginson IJ, McCarthy M. Validity of the support team assessment schedule: do staffs' ratings reflect those made by patients or their families? Palliat Med. 1993; 7(3): 219-28.
4) Carson MG, Fitch MI, Vachon ML. Measuring patient outcomes in palliative care: a reliability and validity study of the Support Team Assessment Schedule. Palliat Med. 2000; 14(1): 25-36.
5) Miyashita M, Matoba K, Sasahara T, et al. Reliability and validity of the Japanese version of the Support Team Assessment Schedule (STAS-J). Palliative & Supportive Care. 2004; 2(4): 379-85.
6) Edmonds PM, Stuttaford JM, Penny J, Lynch AM, Chamberlain J. Do hospital palliative care teams improve symptom control? Use of a modified STAS as an evaluation tool. Palliat Med. 1998; 12(5): 345-51.
7) Morita T, Fujimoto K, Tei Y. Palliative care team: the first year audit in Japan. J Pain Symptom Manage. 2005; 29(5): 458-65.
8) Morita T, Tsunoda J, Inoue S, Chihara S. The Palliative Prognostic Index: a scoring system for survival prediction of terminally ill cancer patients. Support Care Cancer. 1999; 7(3): 128-33.
9) Landis JR, Koch GG. The measurement of observer agreement for categorical data. Biometrics. 1977; 33(1): 159-74.