2006年度調査研究報告
新臨床研究制度における緩和医療教育プログラムの作成と提言<3p>
5)緩和医療の知識
A)世界保健機関(WHO)方式のがん性疼痛治療法について
24名(30.8%)が「十分知っている」、48名(61.5%)が「一部知っている」と回答した。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.440、p=0.288)(図12)。
図12
WHO方式のがん性疼痛治療について
B)WHOの鎮痛薬の基本5原則
11名(14.1%)が「十分知っている」、49名(62.8%)が「一部知っている」と回答した。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.986、p=0.975)(図13)。
図13
WHOの鎮痛薬の基本5原則について
C)がん疼痛の判定者について
「患者」と正答した研修医は61名(79.2%)で、次いで「主治医」の回答が多かった(12名、15.6%)。 卒後1年目の研修医の25%が「主治医」と回答し、他の学年より多かったが、 有意差はみられなかった(χ2=0.731、p=0.632)(図14)。
図14
がん疼痛の判定者
D)麻薬性鎮痛剤を使い始める時期
「予後に関係なく疼痛がみられるとき」と正答した研修医は72名(92.3%)と正答率は高かった。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.744、p=0.589)(図15)。
図15
麻薬性鎮痛剤を使い始める時期
E)麻薬性鎮痛剤の使用法
「時間を決めて規則正しく使う」と正答した研修医は53名(67.9%)で、「プラセボで疼痛が本当かを確認してから使う」の 回答は3名(3.8%)であった。卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.953、p=0.908)(図16)。
図16
麻薬性鎮痛剤の使い方
F)モルヒネ投与の1日最大許容量
「許容限界なし」と正答した研修医は70名(89.7%)で正答率は高かった。卒業年次があがるほど、 正答率が下がったが有意差はみられなかった(χ2=0.605、p=0.550)(図17)。
図17
モルヒネの1日最大許容量
G)モルヒネの重大な副作用
複数回答可の中で、「中毒・依存」を選択した研修医は10名(12.8%)であった。 卒後1年目は20.8%、2年目は7.4%、3年目以上は11.1%であったが、 有意差はみられなかった(χ2=0.518、p=0.508)(図18)。
図18
モルヒネの重大な副作用、問題点「中毒・依存」を選択した割合
WHOの鎮痛薬の基本5原則を「十分知っている」と回答した11名と、「聞いたことがあるが知らない、聞いたことがない」と 回答した18名の2群にわけて、C)からG)の各設問の回答を比較したところ、どの設問も両群間に有意な差を認めなかった。 C) p=0.495、D) p=0.324、E) p=0.157、 F) p=0.092、G) p=0.364
1)アンケートの回収率は26.6%と低く、特に京大病院内からの回収率が低かった。研修医へのアンケート調査を行う際は 回収方法を検討する必要があると思われた。ある病院からの発表では、病院内で緩和ケアに関するアンケート調査を行うと、 医師の回答率は20%前後と他の職種に比べて著しく低いことが報告されており、今回の調査の数字と似た傾向が認められる。 研修医・指導医双方の緩和医療研修への関心の低さが、 回答率の低さに関係しているのかもしれない。
2)京大病院での緩和医療研修の満足度は低いと思われた。その理由として、1)経験の少なさ、2)病院の診療体制、 3)体系的な指導の欠如、などが挙げられた。これらは以前より指摘されていることであり、病院全体の方向性も含めた改善を 試みるべき項目であると思われる。
3)京大病院での緩和医療研修に、緩和ケアチームが必要だと思う研修医が多く、緩和ケア病棟専任で研修するよりも、初期研修においては、 総合的にトレーニングをうけたいと思う姿勢ではないかと思われる。実際、関連病院においても緩和ケア病棟に専念して研修をしているケースは ほとんどないが、緩和ケアスタッフとの関わりは有意義であると感じている研修医は多く、 その重要性があらためて示唆された。
4)厚生労働省の定める「新医師臨床研修制度における指導ガイドライン」に挙げられている研修方法については、 研修開始初期のまとまった緩和医療研修よりも、随時コンサルテーションを通じた研修を行うことを希望する研修医が多く、 これも上記3)と同じ傾向であった。京大病院の研修医に比べて、関連病院の研修医のほうが、これらの研修方法について肯定的である理由は わからない。
5)今回のアンケート調査に協力してくれた研修医の緩和医療に関する基本的知識は比較的高かったが、十分ではない部分もあり、 卒業年次で回答に有意差がなかった。こうしたアンケートに協力してくれるということが一つのバイアスでもあり、 その他の研修医も同様の知識を有していると考えることは難しい。また自己申告の「知っている」「知らない」は具体的な知識と 相関していないようであり、知識の確認には具体的で客観的な質問等で行う必要があると思われた。
今回の調査により、卒後1年目より緩和医療に関する基本的知識を有している研修医は多いが、京大病院においては十分な 緩和医療研修が行えていないことが示唆された。緩和医療研修をどのように行うかは、病院の診療方針や地域との関係等もあり、 簡単に結論を出すことはできない。また緩和医療研修だけを切り離して考えることも現実的ではなく、大学病院での初期研修の 枠組みの中で緩和医療教育をどのように行うか、について多くの議論が必要だと思われる。しかし多数の研修医が研修を行っている 大学病院では、そうした方法を早急に確立して提示していく使命があると思われる。研修医の希望も含めて考えると、 初期研修においては、随時、統一性のある緩和医療研修のコンサルテーションができる体制を確立し、 日々の診療の中で緩和医療を学ぶとともに、定期的な講習会、勉強会を実施し、緩和医療の知識を積み上げ関心を高めることが 不可欠であると思われた。
謝辞
本調査・研究を遂行するにあたり、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団より研究助成金を賜りましたことを深く感謝いたします。
A)世界保健機関(WHO)方式のがん性疼痛治療法について
24名(30.8%)が「十分知っている」、48名(61.5%)が「一部知っている」と回答した。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.440、p=0.288)(図12)。
図12
WHO方式のがん性疼痛治療について
B)WHOの鎮痛薬の基本5原則
11名(14.1%)が「十分知っている」、49名(62.8%)が「一部知っている」と回答した。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.986、p=0.975)(図13)。
図13
WHOの鎮痛薬の基本5原則について
C)がん疼痛の判定者について
「患者」と正答した研修医は61名(79.2%)で、次いで「主治医」の回答が多かった(12名、15.6%)。 卒後1年目の研修医の25%が「主治医」と回答し、他の学年より多かったが、 有意差はみられなかった(χ2=0.731、p=0.632)(図14)。
図14
がん疼痛の判定者
D)麻薬性鎮痛剤を使い始める時期
「予後に関係なく疼痛がみられるとき」と正答した研修医は72名(92.3%)と正答率は高かった。 卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.744、p=0.589)(図15)。
図15
麻薬性鎮痛剤を使い始める時期
E)麻薬性鎮痛剤の使用法
「時間を決めて規則正しく使う」と正答した研修医は53名(67.9%)で、「プラセボで疼痛が本当かを確認してから使う」の 回答は3名(3.8%)であった。卒業年次で回答に有意差はみられなかった(χ2=0.953、p=0.908)(図16)。
図16
麻薬性鎮痛剤の使い方
F)モルヒネ投与の1日最大許容量
「許容限界なし」と正答した研修医は70名(89.7%)で正答率は高かった。卒業年次があがるほど、 正答率が下がったが有意差はみられなかった(χ2=0.605、p=0.550)(図17)。
図17
モルヒネの1日最大許容量
G)モルヒネの重大な副作用
複数回答可の中で、「中毒・依存」を選択した研修医は10名(12.8%)であった。 卒後1年目は20.8%、2年目は7.4%、3年目以上は11.1%であったが、 有意差はみられなかった(χ2=0.518、p=0.508)(図18)。
図18
モルヒネの重大な副作用、問題点「中毒・依存」を選択した割合
WHOの鎮痛薬の基本5原則を「十分知っている」と回答した11名と、「聞いたことがあるが知らない、聞いたことがない」と 回答した18名の2群にわけて、C)からG)の各設問の回答を比較したところ、どの設問も両群間に有意な差を認めなかった。 C) p=0.495、D) p=0.324、E) p=0.157、 F) p=0.092、G) p=0.364
IV 今後の課題
1)アンケートの回収率は26.6%と低く、特に京大病院内からの回収率が低かった。研修医へのアンケート調査を行う際は 回収方法を検討する必要があると思われた。ある病院からの発表では、病院内で緩和ケアに関するアンケート調査を行うと、 医師の回答率は20%前後と他の職種に比べて著しく低いことが報告されており、今回の調査の数字と似た傾向が認められる。 研修医・指導医双方の緩和医療研修への関心の低さが、 回答率の低さに関係しているのかもしれない。
2)京大病院での緩和医療研修の満足度は低いと思われた。その理由として、1)経験の少なさ、2)病院の診療体制、 3)体系的な指導の欠如、などが挙げられた。これらは以前より指摘されていることであり、病院全体の方向性も含めた改善を 試みるべき項目であると思われる。
3)京大病院での緩和医療研修に、緩和ケアチームが必要だと思う研修医が多く、緩和ケア病棟専任で研修するよりも、初期研修においては、 総合的にトレーニングをうけたいと思う姿勢ではないかと思われる。実際、関連病院においても緩和ケア病棟に専念して研修をしているケースは ほとんどないが、緩和ケアスタッフとの関わりは有意義であると感じている研修医は多く、 その重要性があらためて示唆された。
4)厚生労働省の定める「新医師臨床研修制度における指導ガイドライン」に挙げられている研修方法については、 研修開始初期のまとまった緩和医療研修よりも、随時コンサルテーションを通じた研修を行うことを希望する研修医が多く、 これも上記3)と同じ傾向であった。京大病院の研修医に比べて、関連病院の研修医のほうが、これらの研修方法について肯定的である理由は わからない。
5)今回のアンケート調査に協力してくれた研修医の緩和医療に関する基本的知識は比較的高かったが、十分ではない部分もあり、 卒業年次で回答に有意差がなかった。こうしたアンケートに協力してくれるということが一つのバイアスでもあり、 その他の研修医も同様の知識を有していると考えることは難しい。また自己申告の「知っている」「知らない」は具体的な知識と 相関していないようであり、知識の確認には具体的で客観的な質問等で行う必要があると思われた。
今回の調査により、卒後1年目より緩和医療に関する基本的知識を有している研修医は多いが、京大病院においては十分な 緩和医療研修が行えていないことが示唆された。緩和医療研修をどのように行うかは、病院の診療方針や地域との関係等もあり、 簡単に結論を出すことはできない。また緩和医療研修だけを切り離して考えることも現実的ではなく、大学病院での初期研修の 枠組みの中で緩和医療教育をどのように行うか、について多くの議論が必要だと思われる。しかし多数の研修医が研修を行っている 大学病院では、そうした方法を早急に確立して提示していく使命があると思われる。研修医の希望も含めて考えると、 初期研修においては、随時、統一性のある緩和医療研修のコンサルテーションができる体制を確立し、 日々の診療の中で緩和医療を学ぶとともに、定期的な講習会、勉強会を実施し、緩和医療の知識を積み上げ関心を高めることが 不可欠であると思われた。
V 調査・研究の成果等公表予定(学会、雑誌等)
- 日本緩和医療学会総会での発表
- Palliative Care Researchへの投稿
謝辞
本調査・研究を遂行するにあたり、日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団より研究助成金を賜りましたことを深く感謝いたします。