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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2001年度調査研究報告


■遺族ケアのニーズと現状に関する基礎調査研究 <4P>



2. 教育的介入プログラム前後での感情状態の変化(図5)

 プログラム参加前のPOMS得点の平均値は「緊張-不安」が15.0(SD=7.5)、「活気」が9.7(SD=6.9)であった。日本版POMS手引(横山・荒記, 1994)によると、健康成人の「緊張-不安」の平均値は男性で12.0、女性で12.1であり、「活気」の平均値は男性で14.2、女性で13.3とされている。したがって、本研究の対象者はプログラム参加前時点では、平均値で見ると健康成人に比べ「緊張-不安」が高く、「活気」が低い状態にあったと言える。

 プログラム前後での感情状態の変化を検討するため、対応のあるt検定を行った。その結果、「緊張-不安」得点に関しては有意差が認められ(t=-4.52, df=26, P<0.001)、プログラム前後で「緊張-不安」が低減していることが示された。「活気」得点に関しても傾向差は認められ(t=-1.85, df=26, P<0.08)、プログラム前後で「活気」が高まる傾向にあることが示された。

 今回、ホスピス・緩和ケアにおける新たな遺族ケアプログラムの試みとして、教育的介入プログラムを実施したのであるが、参加者の評価は当初の予想以上に高かった。また、プログラムの前後で参加者の感情状態に改善が認められた。これらのことから、今回の教育的介入プログラムの有効性が示唆され、新たな遺族ケアプログラムとして今後の発展的展開が大いに期待される。


■本研究全体の今後の課題
複数のホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアプログラムに関する比較検討
 今回、1施設における遺族ケアプログラムの現状を分析した。今後、複数の施設における遺族ケアプログラムを比較検討することが重要であると考えられる。各施設における遺族ケアプログラムの内容や成果、問題点などを把握し、比較検討することで、ホスピス・緩和ケアにおける遺族ケアプログラムの方向性が明確になると思われる。

遺族ケアプログラムに対する遺族のニーズの把握
 本研究は施設が提供した遺族ケアプログラムに対して、自主的に参加した方のみを研究対象とした。それゆえ、今回取り上げたサポートグループや教育的介入プログラムが全ての遺族に有効であるとの一般化は適切ではない。遺族ケアプログラムは、必要とする遺族に必要なケアを提供してはじめてその効果が得られるはずである。したがって、今後の遺族ケアプログラムの展開を考える上で、遺族がどのような遺族ケアプログラムを望んでいるかを把握する必要がある。

遺族ケアプログラムに関するガイドラインの策定
 現在のところ、各ホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアプログラムは、各施設が試行錯誤をしながら独自に行っている。将来的には、より多くの人により効果的かつ有効な遺族ケアプログラムを提供するため、基礎的および実践的研究の知見を踏まえて、ホスピス・緩和ケアにおける「遺族ケアプログラムに関するガイドライン」を策定する必要があると思われる。

■成果等公表予定(学会、雑誌等)
 本研究の成果は、第7回日本緩和医療学会総会及び第26回日本死の臨床研究会等にて学会発表を行うとともに、「Journal of Palliative Care」「死の臨床」「ターミナルケア」等の学術雑誌への投稿を予定している。

おわりに

 本研究では、ホスピス・緩和ケア病棟における遺族のサポートグループの現状分析を行うとともに、新たな試みとして教育的介入プログラムを実施し、その有効性を検討した。主な結果は以下の通りである。
  1. サポートグループへの期待として、「同じような体験をした人の気持ちを聞きたかった」との回答が最も多かった。
  2. サポートグループに参加して良かったこととして、回答者の60%以上が「考え方が前向きになった」「気持ちが軽くなった」「気持ちが整理できた」と回答した。
  3. 回答者の90%がサポートグループに参加して良かったと回答し、88%がこれからも必要だと思うと回答した。
  4. 教育的介入プログラムに対する参加者の満足度は高かった。
  5. 教育的介入プログラムの前後で、「緊張-不安」が低減し、「活気」が高まった。
 以上の結果から、ホスピス・緩和ケアにおける遺族ケアプログラムの一つとして、サポートグループの活動意義は大きいと言える。また、教育的介入プログラムに関しては、新たな遺族ケアプログラムとして今後の発展的展開が望まれる。

【引用文献】
蛭田みどり 2001 遺族会“さくら会”の今後の展開にホスピススタッフが求められていること. 死の臨床, 24(2), p.179.
河合千恵子 1997 配偶者と死別した中高年者の連続講座による介入とその効果. 心理臨床学研究, 15, 461-472.
松島たつこ・赤林朗・西立野研二 2000 日本のホスピス緩和ケア病棟における遺族ケアの現状. 第5回日本緩和医療学会総会抄録, p.118.
松島たつこ・赤林朗・西立野研二 2001 ホスピス緩和ケアにおける遺族ケア-遺族ケアについての意識調査と今後の展望-. 心身医学, 41, 430-437.
世界保健機関編(武田文和訳) 1994 がんの痛みからの解放とパリアティブケア-がん患者の生命へのよき支援のために. pp.5-12, 金原出版.
横山和人・荒記俊一 1994 日本版POMS手引. 金子書房
 

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