■第7章■ 日常生活の援助 がん患者は病状の進行に伴い、それまでの生活習慣を維持することに困難を覚えるようになる。しかし、ほとんどの患者は、できる限り自分のことは自分でやりたいと思っている。こうした患者の自律性を維持したいという気持ちを理解し、その気持ちを支えながら、患者が生活習慣をできる限り維持できるよう援助していく。 I.食事の援助 食べることは人間の基本的欲求の一つである。しかし、病状が進むにつれ患者の食欲は低下し、食べられるものが少なくなったり、食べることに苦痛を感じたりするようになる。このような場合には、栄養摂取に主眼をおくよりも、患者が食べたいものや好きな食べもの中心の献立、患者の好みの味付けでの調理など、少しでも食べられるように工夫する。食欲を少しでも高められるように、少なめの量で、彩りのある盛り付けを工夫したり、旬のものを取り入れたりして食事を楽しめるよう配慮する。 食事の際にはベッドサイドの環境を整え、食事をとりやすい体位を調整し、患者の食べるペ-スに合わせた介助を行う。また、患者によっては料理の臭いで嘔気や嘔吐が誘発され、食欲が消失してしまうこともあるため、予め臭いを飛ばしてから配膳するなどの心づかいも必要である。 患者の経口摂取量が少なくなると、家族や親しい人々は患者の体力がますます低下するのではないかと心配し、患者に食事摂取を強く勧めるが、このことは却って患者の精神的苦しみを増強させることになる。活動量が低下すれば、栄養摂取量も少なくてすむことを説明し、少量でもよいから無理しない程度に食べさせるよう勧める。さらに家族と一緒に和やかに食事できるようにするとよい。 患者は体力の衰えに伴い、歩いてトイレへ行けなくなるため、ベッドサイドにポ-タブルトイレの設置が必要となり、やがてベッド上での排泄に移行せざるを得なくなる。 排泄の援助を嫌う患者もいるので、できる限り患者の意向を尊重しつつ介助するが、自らの力で排泄できなくなることに対する気持ちを十分理解し、「つらいですね」などの言葉をかける。 1.排便の援助 便秘の原因を明らかにして、適切な緩下薬を投与する。摘便や浣腸も必要に応じて行い、便秘が続かないよう調整する。。 不眠は患者の主観的な感覚である。まず「昨夜はよく眠れましたか」と尋ね、不眠の有無を見出す。次に、眠りにつくまでに時間がかかるのか、夜間に覚醒し再び眠ることがむずかしいのかなど、不眠の内容を確認する。終末期患者における不眠の原因は単一ではなく、複数の原因が重なっていることが多い。 不眠の原因となる身体的、心理的、環境的要因を除去する努力が対応の基本である。同時に、睡眠を助ける薬の使用を考慮する。就寝前のケアとしては、口腔内ケアや洗面などの清潔への援助や排尿の調整を行う。入眠困難な場合には足浴や足の温罨法などを行って入眠を促す。 痛みなどの不快な身体的症状のために眠れない場合には、症状のマネジメントを開始する。抑うつやせん妄による不眠の場合には、抑うつやせん妄の治療を優先する。しばらく付き添ってマッサ-ジなどを行うことも有用である。患者の生活習慣を確認し、部屋の明るさや温度などの環境条件を患者個々の希望にそって調整する。 終末期においては、患者は不安や恐怖のために眠れなくなることが多い。このような患者の訴えをありのまま受け止める姿勢で患者の全体像を見つめ、無用な不安や恐怖を取り除くよう援助する。 |
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