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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第7章■ 日常生活の援助

IV.姿勢、体位保持の援助

 健康な人は、睡眠中も頻繁に体位を変換している。しかし、全身衰弱が進むと、患者が自ら体位を変えて望ましい姿勢をとることが困難になる。このため一定時間ごとに体位変換し、圧迫による痛みや褥瘡を予防する。

 患者は楽な体位を自然にとるが、同一体位ばかりをとっていると、筋肉が緊張して疲労感が増し、痛みを伴うことにもなる。患者の好みを尊重しながら体位を変え、枕やバスタオルを利用してさらに安楽な肢位を保持し、疲労させないようにする。安楽な肢位を患者に尋ねながら、関節の可動範囲内でゆっくりと曲げ伸ばしする。

 上腕骨に転移があって上肢が痛む場合には、肩を少し開いて肘を曲げ、手を枕の上にのせると痛みを軽減できる。

 下肢の浮腫の場合には、丸めたバスタオルの上に下肢をのせて挙上すると浮腫を軽減できる。患者にとって楽な体位を最低2種類以上確保する。褥瘡予防のための体位変換は2時間以内ごとに行う。

V.清潔の援助

 身体各部を清潔に保つことは日常生活の基本であり、患者が病気であるがゆえに自分の清潔の基準を引き下げることがないよう配慮する。

1.入浴、清拭
 入浴は患者に気分転換や爽快感をもたらす。終末期であっても入浴を好む患者が多い。入浴によって疲労感が増すことのないよう入浴時間を設定する。入浴中は手際よく身体を洗い、湯船につかる時間を短くする。患者の好む入浴剤で気分転換がはかれ、満足感が得られることが多い。入浴後は水分の補給を行い、休息をとらせる。入浴が負担になる全身状態であると判断した場合には、全身清拭、部分清拭、手浴、足浴などを組み合わせて数日ごとに行う。

2.陰部の清潔
 終末期患者は自分で陰部の清潔を保つことが難しくなる。トイレに陰部の洗浄機能がついている場合には、それをひとりで使えるよう援助する。ポ-タブルトイレやベッド上での排泄を余儀なくされている場合には、微温湯を入れた洗浄ボトルを用いて排泄後に洗い流す。その際には、患者の自尊心を損なうことがないようプライバシ-に配慮する。

3.口腔内の清潔
 口腔内の清潔の維持も病状の進行に伴う全身倦怠感などで自分では十分に行えなくなり、援助が必要となる。終末期では唾液の分泌が減少し、口腔内の乾燥が著しくなる。加えてコルチコステロイドが投与されていると、舌苔、口内炎などの感染、味覚の変化などが起こりやすい。患者のそれまでの習慣を尊重しながら歯磨き、うがいなどの援助を積極的に行う。歯を磨くことで嘔気が誘発されるときは水歯磨きなどを用いて口をゆすぐようにする。

VI.リハビリテーション

 終末期におけるリハビリテ-ションは、患者の日常生活動作を拡大していくために有効であり、残された日々をその人らしく生きるためにも重要な要素である。痛みなどの辛い諸症状が緩和し始めたら、患者の意向を確認して症状のマネジメントと並行して行う。具体的には、理学療法士から寝返りや座り方について指導を受け、続いて、ベッドからの起き上がり方や立ち上がり方、車イスへの乗り移り方、歩行器や杖を用いた歩き方などの訓練を順に行っていく。日常生活動作の拡大に伴って患者は自分の力で行動可能であることが認識でき、満足感を抱くことができる。また、寝返り方などを学ぶと、介護者の負担が軽減される。
 リハビリテ-ションを継続的に行うことは、単調な生活にリズム感を持たせ、気分転換を促すが、患者が過大な希望を抱き、疲労感を増強させたり、体力を消耗させたりしてしまうこともあるので、患者と十分に話し合いながら進める。

 入院患者では家族の協力のもと自宅への外泊を計画したり、外出可能な患者では家族と一緒の旅行を計画したりすることは、患者にとってはリハビリテーションとなり、楽しみでもある。外泊、外出、旅行などの希望がある場合には、先延ばしせず、可能な限り実現できるよう患者と家族を援助する。

VII.生活環境の調整


 終末期患者にとり、今、その場所が生活の場であり、プライベ-トな世界である。このため自宅で死を迎えたいと望むことがあるが、介護力や住宅の問題などにより実現できるとは限らない。その場合には、終末期を過ごすにふさわしい病院内の環境づくりが必要となる。

 生活環境の調整を行ううえでは、“その人にとっての心地よさ”を探り、可能な限り個々の求める生活環境を提供する。生活環境には明るさ、広さ、静けさ、暖かさという4つの要素が必要である。さらに、適切な室温、換気、清潔さ、プライバシーの尊重も考慮する。

 それまで使い慣れた食器や衣類などの日常生活用品が自由に使え、思い出の写真や品々などを身の回りに置くことも終末期患者が人生の総まとめをするには必要な配慮である。

VIII.心のふれあい

 全身衰弱の進行に伴い自らの力で活動できる範囲は狭くなり、単調な生活を強いられることになる。歩行可能な患者では散歩や外出などを勧め、社会との接点を維持できるよう促していく。自らの力で活動することがむずかしくなった患者では車イスでの散歩、入院中の場合はベッドのままでロビ-に出て過ごすことなどによる気分転換を図る

 入院中は面会時間に制限を設けず、家族や親友、ペットなどが面会でき、そばにいられるよう配慮する。ベッド上での生活を余儀なくされている患者は、自分は価値のない人間になったとの思いを抱きやすいので、家族や担当看護師はじっくりと関われるようにする。また、看護師は1日の過ごし方にリズム感を持たせるよう患者と一緒に計画し、どんな小さなことでも患者が興味を覚え、生産的な活動ができる状況を作り出すよう努める。

 病棟内で患者同士の心のふれあいの場が作り出せれば理想的である。気分転換やリクリエ-ションの機会が病気により奪い去られるため、ホスピス・緩和ケア病棟では、季節ごとの行事や音楽会などを開いている。


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