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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2005年度調査研究報告


■ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育プログラム作成
 公立大学法人山口県立大学 
 正司 明美

I調査・研究の目的・方法
本調査・研究は2004年2月に作成した「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワークガイドライン」で示された心理・社会的支援を実践化し、ソーシャルワーカーの質的向上をはかるために、教育・研修システムを確立することを目的に行った。
調査・研究は以下の共同研究者とともに、実施した。
【共同研究者】
田村里子(東札幌病院)
磯崎千枝子(上尾甦生病院)
高野和也(ピースハウス病院)
栗原幸江(静岡県立静岡がんセンター)
佐藤博文(大分ゆふみ病院)
服部洋一(東日本国際大学)
大松重宏(国立がんセンター中央病院)
福地智巴(静岡県立静岡がんセンター)
金田美佐緒(岡山済生会総合病院)
*( )内は2005年度の所属
II調査・研究の内容・実施経過
【手順】
共同研究者による「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育プログラム」作成のための検討会議を実施した。(2回)
日本ホスピス緩和ケア協会会員A施設およびB施設に所属するソーシャルワーカーを対象に「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育・研修に関するニーズ調査」を行った。
「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育プログラム」を作成した。
【ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの、
教育・研修に関するニーズ調査の実施】

アンケート調査の目的
1)ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育・研修ニーズについて把握する。
2)以上の教育・研修ニーズの把握により
「ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワークガイドライン」の実践化のための教育プログラムを作成する。

対象
日本ホスピス緩和ケア協会A会員B会員(2005年10月1日現在)の施設に所属するソーシャルワーカー

方法と結果
質問紙郵送留置法で無記名により実施した。
調査期間2005年11月~12月
調査用紙配布施設数219施設
回収数128枚
回収率58%

アンケート調査の内容
1)属性
@性別
A年齢
Bソーシャルワーカーの経験年数
Cホスピス・緩和ケアでの経験年数
D最終学歴
E関連資格(複数回答可)
2)所属
@所属病院のホスピス・緩和ケア病棟への専任配置状況(専任・準専任・兼任)
A専任・準専任配置の経緯
B所属病院のソーシャルワーカー数
C所属病院の種類
D所属病院の病床数(病院全体・緩和ケア病棟)
3)ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育・研修
@具体的研修項目の必要度(18項目について5段階の必要度回答)
A教育・研修方法(7項目について2段階の必要度回答、複数回答可)
B研修機会(4項目の研修機会への希望回答、複数回答可)

教育・研修ニーズに関するアンケート調査結果
調査結果については、字数制限のため、教育・研修ニーズに関する項目についての結果のみを表1、表2、表3に掲載した。


考察
研修内容については、「がん患者の心理」と「がん患者の家族理解」が、回答者全員が必要と感じていた。次いで多かった「精神症状」と併せて、ソーシャルワーカーが、患者の内面的な問題に対する援助を担っていることが推察される。また、患者への直接的な療養援助は、医師や看護師などが担当するが、家族の心理的な葛藤や不安、家族間の人間関係、家族の生活上の問題などには、ソーシャルワーカーの支援が求められ、ソーシャルワーカーの主要な役割となっていることが、「がん患者の家族理解」についての研修ニーズが高いことの要因であると考えられる。 次いで高かった「他職種チーム内のコミュニケーション」は、ホスピス・緩和ケアにおいて、チームアプローチがケアの主要な柱として位置づけられているが、従来の日本の医療において最も欠けていたことであり、他職種チーム内のコミュニケーションが、未だ困難であるという実態を示しているとも推察される。今後、円滑なチームアプローチのための教育的トレーニングは不可欠である。
次にソーシャルワーク・アセスメントは、ソーシャルワーカーが最も専門性を発揮できるスキルであるが、研修ニーズは96%と高かった。このことは現任者においても、継続的、日常的なトレーニングが必要であることを示唆したものであると考える。
また「がん終末期における身体症状やその治療の実際」については、95.3%が必要であると回答していた。
がん終末期においては、患者の身体症状と心理的、あるいはスピリチュアルな問題とは密接な関係がある。また、家族も含めてその影響を受け、治療上のあるいは生活上の選択を迫られる場面も多い。このため、ソーシャルワーカーが、がん終末期患者の身体症状や治療の基礎を学ぶ必要があるが、国家資格である社会福祉士の養成教育の現状をみても、これらの学びを得ることは困難であり、卒後研修として提供する必要がある研修項目である。 研修方法・研修機会については、全ての項目が平均的に必要であると回答された。
このことは講義、演習など教育方法の工夫が求められていることの示唆であると同時に、本調査で、ソーシャルワーカーの現任者教育や研修についての熱い思いを確認することができた。

III調査・研究の成果
ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの
教育プログラム


〈目的〉
本プログラムは、2004年2月に作成した「ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワークガイドライン」で示された心理・社会的支援をソーシャルワーカーが実践化する際に、必要となる知識、技術、態度を習得および再学習するために作成した教育プログラムである。
ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの経験年数には差異があるが、今回の調査で、日本のホスピスおよび緩和ケアの現場では、ソーシャルワーカーが配置されていたとしても、複数配置は少ない現状が明らかになった。言い換えれば、多くのソーシャルワーカーは、経験年数や年齢には関係なく、単独でホスピス・緩和ケアを利用する患者や家族の援助に携わることでもある。本プログラムは、これらのことを鑑みて、基本的教育内容として作成したものであるため、実際の研修活動において、研修方法の工夫等により、さらに高度に展開されることを期待するものである。
なお、本調査・研究報告は字数制限があるため、作成したプログラムのうち、中項目までを明示する。

知識
1)がん患者の心理
(1)キューブラー・ロスの「死にゆく人の心理過程」
(2)「生」への執着と希望
(3)身体的症状コントロールと「生」への希望と不安
(4)自然感情(恐怖・怒り・嫉妬・悲哀・愛)の解放と死の受容
2)患者の家族の理解
(1)家族の苦悩
(2)家族の役割
(3)家族関係におけるキーパーソンとその役割
3)がん症状の理解
(1)種々の痛みの理解と疼痛コントロールの実際についての理解
(2)痛み以外の身体症状についての理解
4)抑うつ(depression)
(1)抑うつ気分
(2)抑うつ症状と抑うつ症候群
(3)うつ病

技術(演習による体験的習得)
1)面接技術
(1)ソーシャルワーク面接の援助構造
(2)耳を傾けて聴く(傾聴)
(3)コミュニケーション技術
2)ソーシャルワーク・アセスメント
(1)アセスメントの段階
(2)データ収集のための具体的項目
(3)対象者のポジショニングのための視点
(4)アセスメントの枠組みと理論的アプローチ
3)チームアプローチ
(1)効果的なチームアプローチのための原則
(2)効果的なチームアプローチの実践
4)ソーシャルワークの具体的方法
(1)ケアマネジメント
(2)ネットワーク・アプローチ
(3)カウンセリング
(4)ストレスマネジメント
(5)ファミリーセラピー(家族療法)
(6)危機介入
(7)ストレングス理論
(8)エンパワーメント
(9)グループワーク
(10)グリーフワーク(遺族ケア)
(11)スピリチュアルケア

専門的態度・自己覚知(演習を含む)
1)ソーシャルワーカーの倫理性
(1)ソーシャルワーカーの倫理綱領
(2)倫理と患者の権利擁護
2)倫理的ディレンマからの脱却
(1)倫理的ディレンマ
(2)倫理的ディレンマからの脱却
3)ソーシャルワーカーの自己覚知
(1)自己理解
(2)自己表現(アサーショントレーニング、グループワーク)

その他
1)記録
(1)ソーシャルワーカーの記録の実際
(2)チームアプローチにおける記録
2)スーパービジョン
(1)スーパービジョンの種類と方法
(2)スーパービジョンの活用
IV今後の課題
2001年に日本ホスピス緩和ケア協会(当時は全国ホスピス・緩和ケア連絡協議会)の会員施設のソーシャルワーカーを対象に、初めてソーシャルワーカーの実態調査を行ってから、4年が経過した。この実態調査をふまえて、ソーシャルワーカーの業務の標準化を行うために、2004年2月に「ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワークガイドライン」を作成した。そして、今年度2005年度に「ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育プログラム」を作成したことで、今後はこのプログラムを有効に活用するために、次の2点が課題となると考えている。
@ソーシャルワーカーの教育・研修の場や機会を確保し、より多くのソーシャルワーカーが継続的な教育・研修が受けられるためのシステムをつくる。
A全国のホスピス・緩和ケアで活動するソーシャルワーカーの日常業務に活用してもらうために、今回の報告書に掲載できなかった「ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの教育プログラム」の全文および「ホスピスおよび緩和ケアにおけるソーシャルワークガイドライン」を、冊子としてまとめる。
V調査・研究の成果等公表予定
(学会、雑誌等)
2006年度日本医療社会事業協会、2006年度日本死の臨床研究会および、雑誌「緩和ケア」、学会誌「医療ソーシャルワーク」等で発表予定である。

〈引用・参考文献〉
1)南彩子・武田加代子ソーシャルワーク専門職性自己評価相川書房2004年
2)黒木保博・山辺朗子・倉石哲也編著福祉キーワードシリーズソーシャルワーク中央法規2002年
3)丸山マサ美編著医療倫理学中央法規2004年
4)鷹野和美編著チーム医療論医歯薬出版2002年
5)久保紘章ソーシャルワーク~利用者のまなざし~相川書房2004年
6)北島英治・副田あけみ・高橋重宏・渡部律子編ソーシャルワーク演習(上)有斐閣2002年
7)緩和ケア増大特集スピリチュアルペイン~いのちを支えるケア~青海社15巻5号2005年
8)緩和ケア特集もっと知りたい症状緩和と放射線治療青海社15巻3号2005年 9)ターミナルケア特集家族の抱える苦悩~どう考えどうケアするか~三輪書店12巻5号2002年
10)ターミナルケア特集チーム医療と緩和ケアチーム三輪書店13巻4号2003年
11)ターミナルケア特集倫理的な判断が問われる場面三輪書店7巻3号1997年
12)ターミナルケア特集大切な人を亡くした方を支える三輪書店11巻1号2001年
13)奥川幸子未知との遭遇三輪書店1997年
14)平木典子アサーショントレーニング(株)日本・精神技術研究所1993年
15)キャロル・シュトーダッシャー悲しみを超えて創元社2000年
16)ジーン・ルートンターミナルケアにおけるコミュニケーション星和書店1997年
17)デボラ・サーモン歌の翼に・緩和ケアの音楽療法春秋社2004年
18)坪井栄孝監修田城孝雄編著がんの在宅医療中外医学社2002年
19)カナダ国立映画制作庁大井玄・木村利人・藤井正雄日本語版監修ビデオ生命倫理を考える~終わりのない8編の物語~(株)丸善
20)寺谷隆子・田村文栄・宗像利幸監修・指導ビデオピアカウンセリングセミナー(株)ニューストン・(株)メディコム
21)ホスピス・緩和ケア教育カリキュラム(多職種用)全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会教育研修専門委員会2001年12月
22)J.ミルナー・P.オバーン著杉本敏夫・津田耕一監訳ソーシャルワーク・アセスメントミネルヴァ書房2001年