I目的 |
わが国では2002年に緩和ケア診療加算が算定されるようになり、全国的に緩和ケアチーム(PCT:Palliative Care Team)が普及しつつある。大学病院の緩和ケアを考える会では2003~2005年の3年間にわたり、大学病院におけるPCTの実態について調査した。本報告では2005年の調査結果と3年間の推移について報告する。 |
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II対象と方法 |
対象はわが国の全ての大学病院である。2003、2004年は8月、2005年は12月に、自記式調査票による郵送法にて調査を行った。各施設に調査票を送付し、看護部長に病院の概要とPCTの有無の回答を依頼した。さらに、PCTを有する施設についてはPCTの担当者にPCTの活動状況についての回答を依頼した。未回収施設に対し、約1ヶ月後に督促を行った。 |
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III調査項目 |
施設の背景として、病床数、昨年の平均在院日数、緩和ケア病棟の有無などをたずね、現在のPCTの有無をたずねた(表2を参照)。PCTの活動状況として、活動期間、緩和ケア診療加算(以下、加算)の算定期間、チームの構成メンバー、年間患者数、1日あたりの患者数、患者1人あたりの平均ケア日数、加算算定の有無、加算算定していない理由(算定していない施設のみ)、チーム構成メンバーの所属、活動内容等をたずねた(表4、表5を参照)。また、自由回答で「1.緩和ケアチームで困難に感じていること」「2.緩和ケアチームの今後の課題」「3.緩和ケアチームでやりがいを感じること」「4.大学病院の緩和ケアを考える会の今後の活動、取り上げて欲しい問題」についてたずねた。 |
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IV分析方法 |
各項目について年ごとに記述統計を行った。また、2005年のみ、PCTの有無との関連要因、加算の有無との関連要因、加算の有無と活動状況の関連を統計学的検定によって検討した。統計学的検定は2値変数はカイ2乗検定、順位変数はCochran-Armitage検定、Mantel検定によって行った。期待度数が5以下のセルがある場合はFisherの直接確率検定もしくは正確なCochran-Armitage検定を用いた。統計学的検定は全て両側検定で行い、有意水準は5%とし、P<0.1の場合は傾向ありと表記した。統計学的検討は統計パッケージSASv9.1を用いた。 |
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V結果および考察 |
表1に回収率を示した。2005年は調査票を123施設に送付、有効回答は99件であり(回収率80%)、過去の調査と同様であった(2003:80%、2004:79%)。 表2に回収施設の背景を示した。2005年の病床数は500床以上750床未満が最も多く34%であった。2005年の平均在院日数は20日未満が56%、20日以上25日未満が36%であった。2005年度は緩和ケア病棟を有する施設は6施設(6%)であった。 2005年ではPCTを有する施設は33(33%)であり、過去の調査(2003:27%、2004:29%)より微増した。2年以内にPCT設立の予定がある施設は2003年では24施設であったが、2005年には9施設になっていた。回答があった施設に限ってではあるが、実際、PCTは2003~2005で6施設増加しているが、これは2003年度の予定の多くが実現されていないことを示している。 PCTの有無の関連要因を表3に示した。統計学的検定の結果、病床数が多い施設でPCTがある割合が有意に高かった(P=0.007)。また、国公立の施設のほうがPCTがある割合が高い傾向にあった(P=0.093)。これらには、対象となる患者が多いこと、PCTの活動に意欲をもつ職員が多いこと、職員をチーム担当とする経営上の余裕が若干あることなどによるかもしれない。 PCT活動状況を表4、表5に示した。緩和ケア診療加算を算定している施設は11(11%)であり、2004からの変化は小さかった(2003:3%、2004:9%)。PCTを有する施設が緩和ケア診療加算を算定しない理由は2003では「病院機能評価を受けていない」が75%と最も多かったが、2004は52%、2005年は33%と減少した。同理由で「緩和ケアに専従できる医師がいない」との回答は、2003は40%、2004は43%であったが2005年は82%と最も多かった。専従看護師がいないという回答は、2003は20%、2004は48%、2005年は56%であった。病院機能評価という、いわば構造面のバリアが解消されたとしても、人事的な問題もしくは能力(資格)がバリアとなりPCTが十分に普及していないことを示している。多くの大学病院にとって、十分な専門的能力を有する緩和ケア医、精神科医、看護師を一般診療から外れる形で組織化することは、いまだ困難である。 2005年のPCTの年間患者数は平均106±114人であり中央値は86人であった。1日あたりの患者数(過去1ヶ月の平均)は11.9±10.0人であり、中央値は10人であった。PCTの構成メンバー、その割合は3年間であまり変化しなかった。2005年では前年度に比べ、PCTの活動内容(症状コントロール、患者・家族の意思決定への支援、患者・家族への精神的サポート、療養環境整備のコーディネートなど)、カンファレンスの開催や内容、患者・家族へのチームの活動の広報、活動内容の院内報告等に若干の充実が見られた。2005年に新しく加えた質問「PCTが院内で活動を開始したことで充実したと感じていること」では「院内の疼痛緩和ケアの質(89%)」が最も多く、順に「院内の医療者の緩和ケアへの関心(86%)」、「医療者へのサポート(75%)」、「患者・家族へのサポート(68%)」、「院内の緩和ケアの質(54%)」、「地域との連携(32%)」「卒前・卒後の緩和ケア教育(29%)」であった。 緩和ケア診療加算の有無の関連要因を表6に示した。病床数、平均在院日数など全ての変数との関連はなかった。今回の調査では算定と施設背景の要因はなかったが、前述の「算定できない理由」にあるように、人員の確保が最も問題と考えられる。 緩和ケアチームの算定の有無と活動状況の関連を表7に示した。算定しているチームのほうが、有意に活動報告を行っていた(P=0.023)。これは当然の結果であるが、算定しないチームでも約半数が活動報告を行っている。その他については、有意な関連はなかったが、どの項目も殆ど全ての施設が行っているからと考えられる。反対に、遺族ケアに関してはどの施設でも行われていなかったからと考えられる。 算定の有無と年間患者数、1日あたりの患者数は有意に関連した(P=0.011、P=0.0002)。これは算定によって人員と時間が確保されたためと考えられる。平均ケア日数や転帰は関連しなかった。 自由回答の集計結果を表8に示した。「1.緩和ケアチームで困難に感じていること」では、病棟スタッフの知識/技術不足(8:括弧内の数字は回答数)、実働できるメンバーがいない(8)が最も多く、病棟スタッフとのコミュニケーション(6)、人手不足で適切なケアが提供できない(5)、人手不足で時間が確保できない(5)などと、病棟スタッフとの関係性と人員不足と多忙の問題を抱えている施設が多かった。「2.緩和ケアチームの今後の課題」では、質の向上(5)が最も多かった。「3.緩和ケアチームでやりがいを感じること」では、症状緩和の達成(10)、多職種によるチーム医療の実践(7)、患者の希望する場所での療養が達成できた(5)、患者・家族からの感謝(5)が多かった。「4.大学病院の緩和ケアを考える会の今後の活動、取り上げて欲しい問題」では、他施設で行っていることを知りたい(5)が最も多かった。 回答が施設によって、医師または看護師、両者の話し合いによってなされたものなど様々であることは本研究のひとつの限界である。多くが個人もしくは限られた人の考えによって回答しており、若干のバイアスがある可能性は否めない。実際に報告された数字も、正確な統計にもとづくものから、PCT構成員の感覚にもとづくものもあり若干信頼性に欠けている。 全体として回収率は80%であり、返送のない施設には小規模な病院や緩和ケアに関連する部門や人員がない施設が多いことが予想され、本研究の結果は現状の大学病院の状況を反映しているものと考えられる。 |
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VI結論 |
各年度において未回収施設があるものの、我々の3年間の全国調査の結果では、わが国の大学病院におけるPCTの数は27(27%)から33(33%)と若干の増加にとどまった。PCTの活動内容については、若干の充実が見られた。大学病院におけるPCTの関わりとして、PCTは院内医療者への支援(疼痛ケアの質、医療者サポート、緩和ケアへの関心など)に貢献したと感じているが、患者・家族へのサポート、地域との連携、院内の緩和ケアの質、卒前・卒後の緩和ケア教育には依然、課題を有すると認識している。 緩和ケア診療加算の算定は2003年の3施設から2005年の11施設に増加したが、これでもPCTを持つ施設の33%であり、回答があった全大学病院の11%である。加算算定のバリアは、病院機能評価から専従医の確保に変化した。加算算定と施設背景の関連はなかった。 調査回答者はPCTと病棟スタッフとの関係、人員不足と多忙といった問題を抱えている反面、PCTにやりがいを感じている者も多かった。 |