Ⅰ背景 |
2002年に緩和ケア診療加算が算定されて以来、緩和ケアチーム(以下PCT)は増加しつつあるが(西田, 2003)、PCTの看護師がどのような役割を担うのかは明らかではなく、ようやく検討され始めてきたところである(梅田, 2004; 戸谷, 2004)。本研究では、実際にPCTで活動している看護師が、どのような役割を重視して日々活動し、それをどのように評価しているのかを明らかにすることを目的とする。これにより、PCTの看護師の役割を明確化し、活動の方向性や評価指標を考えるうえでの資料としたい。 |
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Ⅱ目的 |
1.緩和ケアチームで活動する看護師の役割認識を明らかにする。 2.緩和ケアチームで活動する看護師の役割に対する自己評価を明らかにする。 3.自己評価の関連要因を探索する。 |
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◆用語の定義 |
緩和ケアチーム: |
看護師を含む2職種以上が所属し、病棟をこえて緩和ケアの提供またはコンサルテーションを行っているチーム |
病棟スタッフ: |
医師・看護師を中心とする、病棟で勤務している医療従事者 |
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Ⅲ方法 1.対象 |
以下の条件を1つ以上満たす施設のPCTで活動する看護師とした。
1. |
全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会(現日本ホスピス緩和ケア協会)事務局でPCTがあると把握している |
2. |
日本緩和医療学会、日本死の臨床研究会、日本がん看護学会にPCTとして発表している |
3. |
施設に日本緩和医療学会PCT検討委員会に登録している者がいる |
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2.調査内容 |
前年度に行ったPCTの看護師の役割に関するフォーカス・グループ・インタビューの結果をもとに、PCTの看護師の役割と考えられる項目を作成した。1)院内全体に対する役割5項目、2)病棟に対する役割19項目、3)PCT内での役割3項目、4)患者・家族に対する役割20項目とした。それぞれの項目について、どのくらい重要と思っているか(役割認識)、どの程度できていると思っているか(自己評価)を4段階順序尺度でたずねた。また、1)~4)のそれぞれについて、総合的な役割認識および自己評価を4段階順序尺度でたずねた。 この他、施設背景および個人背景についてたずねた。また、PCTの看護師として活動する上で困っていることについて自由記載を求めた。 |
|
3.調査手続き |
2004年10月に無記名の自記式調査票を用いて行った。まず、施設の看護部長宛に調査票を郵送し、施設として調査参加が可能である場合、PCTの看護師に調査票を渡してもらうよう依頼した。また、本研究の定義に該当するPCTがなかった場合には、調査票を返送してもらうよう依頼した。回収期限は配布から3週間後とし、同封の返信用封筒にて、直接調査事務局への返送を依頼した。 |
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4.分析方法 |
各項目について単純集計を行った。自己評価の関連要因の検討は、各総合評価の回答を「よくできている」「まあできている」を『できている』、「あまりできていない」「まったくできていない」を『できていない』との2値に分け、施設背景および個人背景との関連をみた。解析には、Cochran-Armitage傾向検定またはFisherの直接確率検定を用いた。統計パッケージは、SAS Windows版 ver.8.2を用い、有意水準は5%として両側検定を行った。 また、PCTの看護師として活動するうえで困っていることに関する自由記載は、内容の類似性に従って分類し、カテゴリを作成した。 |
|
Ⅳ結果 1.回収状況 |
配布数109に対し、定義に該当するチームがないとして返送があったのは21施設であった。回収数は38(43%)であり、病院としての機能が大きく異なると考えられた病床数20以下の2施設、および依頼件数が0であった1施設の計3施設を除外し、35施設を解析対象とした。 |
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2.施設背景(表1) |
病床数500床以上の施設は24(68%)であり、7施設(20%)が、院内に緩和ケア病棟を持っていた。緩和ケア診療加算を算定しているのは15施設(43%)であり、過去に算定していたが現在はしていない施設が2つあった。緩和ケア診療加算を算定していない理由は、人材がいない、病院機能評価を受けていないなどであった。 |
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表1施設背景(N=35) |
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N |
(%) |
病床数 |
250床以下 251-500床 501-750床 750-1000床 1001床以上 中央値(範囲) |
2 9 16 4 4 602 |
(6%) (26%) (46%) (11%) (11%) (197-1103) |
平均在院日数 |
17日以内 18-21日 22-26日 27日以上 平均値±SD |
20 10 4 1 17±4 |
(57%) (29%) (11%) (3%) |
緩和ケア病棟の有無 |
あり なし |
7 28 |
(20%) (80%) |
在宅療養支援部署の有無 |
あり なし |
27 8 |
(77%) (23%) |
緩和ケアサービスを紹介する 部署の有無 |
あり なし |
2 87 |
(77%) (23%) |
緩和ケア診療加算の算定 |
している 過去にしていたが、現在していない していない |
15 2 18 |
(43%) (6%) (51%) |
|
<算定していない理由>(複数回答) 専従できる医師がいない 精神科医がいない 専従看護師がいない 病院機能評価を受けていない その他 |
5 10 10 5 6 |
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|
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|
3.PCTの概要(表2) |
専従医師が1人以上いたのは13チーム(37%)であり、専任医師は全てのチームに存在していた。専従看護師が存在していたのは18チーム(51%)であり、専任看護師が1名以上いたのは26チーム(74%)であった。薬剤師・MSWが専従のチームはなく、専任として活動していた。PCTへの依頼は、チームとしての形式をとるのは22チーム(63%)であり、チームあるいは各職種への両方の形式をとるのは5チーム(14%)であった。前年度のPCTへの依頼患者数が100件を超えていたのは、13チーム(48%)であった。 |
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表2緩和ケアチームの概要(N=35) |
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N |
(%) |
N |
(%) |
PCTの構成メンバー |
|
専従 |
専従 |
医師 |
|
0人 1人 2人 3人以上 |
22 12 0 1 |
(63%) (34%) (0%) (3%) |
0 11 11 13 |
(0%) (31%) (31%) (37%) |
|
診療科名 |
麻酔科 緩和ケア・ホスピス 内科系 精神・心療内科 外科系 |
7 3 2 2 1 |
(47%) (20%) (13%) (13%) (7%) |
|
|
看護師 |
|
0人 1人 2人 3人以上 |
17 18 0 0 |
(49%) (51%) (0%) (0%) |
9 10 2 14 |
(26%) (29%) (6%) (40%) |
薬剤師 |
|
0人 1人 2人 3人以上 |
35 0 0 0 |
(100%) (0%) (0%) (0%) |
7 16 9 3 |
(20%) (46%) (26%) (9%) |
MSW |
|
0人 1人 2人 |
35 0 0 |
(100%) (0%) (0%) |
21 13 1 |
(60%) (37%) (3%) |
その他 |
|
0人 1人 2人 3人以上 |
19 8 2 6 |
(54%) (23%) (6%) (17%) |
35 0 0 0 |
(100%) (0%) (0%) (0%) |
|
|
N |
(%) |
|
PCTへの依頼形式 |
チームとして 各職種ごと 両方 欠損 |
22 6 5 2 |
(63%) (17%) (14%) (6%) |
|
昨年度のPCTへの依頼患者数 (実数)(N=27) |
50以下 51-100 101-150 151-200 201以上 欠損 中央値(範囲) |
8 1 7 4 2 5 112 |
(30%) (4%) (26%) (15%) (7%) (19%) (7-615) |
昨年度の看護師への依頼患者数 (実数)(N=11) |
50以下 51-100 101以上 欠損 中央値(範囲) |
5 1 2 3 38 |
(45%) (9%) (18%) (27%) (5-124) |
外来患者の依頼 |
あり なし 欠損 |
15 19 1 |
(43%) (54%) (3%) |
|
|
|
4.個人背景(表3) |
臨床経験年数は平均17年であり、5年以下のものはいなかった。ホスピス・緩和ケア病棟の勤務経験のあるものは9名(26%)であった。がん看護・緩和ケアに関する資格を保有しているものは半数以上であり、ホスピスケア認定看護師9名(26%)、がん看護専門看護師6名(17%)、がん性疼痛認定看護師4名(11%)の順に多かった。PCTでの活動期間は、中央値が1年6ヶ月であった。 |
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表3個人背景(N=35) |
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N |
(%) |
年齢 |
30歳以下 31-40歳 41-50歳 51歳以上 平均値±SD |
3 18 12 2 40±7 |
(9%) (51%) (34%) (6%) |
臨床経験年数 |
5年以下 6-10年 11-15年 16-20年 21年以上 欠損 平均値±SD |
0 6 8 12 8 1 17±6 |
(0%) (17%) (23%) (34%) (23%) (3%) |
ホスピス・緩和ケア病棟 勤務経験の有無 |
あり なし 欠損 |
9 24 2 |
(26%) (69%) (6%) |
教育歴 |
看護学校 短期大学 看護系大学/大学院 その他 欠損 |
18 5 8 2 2 |
(51%) (14%) (23%) (6%) (6%) |
取得資格 |
なし がん性疼痛認定看護師 ホスピスケア認定看護師 がん看護専門看護師 |
16 4 9 6 |
(46%) (11%) (26%) (17%) |
3週間以上の 研修参加の有無 |
あり なし 欠損 |
25 9 1 |
(71%) (26%) (3%) |
PCTでの活動時間 |
6ヶ月以下 6ヶ月-1年以下 1年-1年6ヶ月以下 1年6ヶ月-2年以下 2年- 中央値(範囲) |
5 6 7 4 13 1年6ヶ月 |
(14%) (17%) (20%) (11%) (37%) (1ヶ月-8年5ヶ月) |
|
|
|
5.PCTで活動する看護師の役割認識の実態(図1~4) |
全項目において、70%以上が「とても重要」あるいは「まあ重要」と回答していた。 院内全体に対する役割では、全ての対象者が「緩和ケアの概念や症状マネジメントに関する知識の普及」を「とても重要」と回答していた。それ以外の項目では、69~77%であった。 病棟に対する役割において、「とても重要」とした回答が80%以上であった項目は、「病棟スタッフとアセスメント内容や対応方法についての話し合い」「病棟スタッフが問題を感じている患者についての相談にのる」「依頼されている患者の情報収集」「病棟スタッフが、治療やケアで困ったり悩んだりしている場合の支援」「病棟スタッフが気づいていない患者のケアニーズを明確化できるよう関わる」「緩和ケアのモデルとなるよう、病棟スタッフに実践を見せる」「個々のスタッフが、患者の全体像を理解して関われるよう支援する」「薬物使用後の評価方法について、病棟スタッフを教育すること」の8項目であった。「とても重要」という回答が60%以下であった項目は、「依頼に円滑に応えられるよう病棟のカンファレンスへ参加」「病棟での緩和ケアの勉強会の支援」「病棟スタッフ間の情報伝達や調整」「病棟スタッフのターミナルケアへの抵抗感を踏まえたうえでの関わり」であった。 PCT内での役割では、「PCTの各メンバー間の連絡・調整」を「とても重要」と回答していたものが86%であった。 患者・家族に対する役割では、患者の諸側面に関するアセスメントおよびその継続的観察に関する項目について、80%以上が「とても重要」と回答していた。また、「家族の心理的支援」「患者にとって最もよい場所で療養できるような支援・調整」についても80%以上が「とても重要」と回答していた。「とても重要」という回答が60%以下であった項目は、「マッサージや足浴などの症状緩和に有効な技術の直接提供」「治療や症状緩和方法について患者・家族から直接相談を受ける」「療養生活について、患者・家族から直接相談を受ける」「家族の希望や意向が尊重されるよう代弁者となる」であった。 |
|
6.PCTの看護師としての活動に対する自己評価の実態(図1~4) |
院内に対する役割において、「できている」の回答割合は、「PCTへの依頼方法の整備」で75%であったが、それ以外の項目は37~52%であった。院内に対する役割の総合評価において、「できている」とした回答は34%であった。 病棟に対する役割において、70%以上が「できている」と回答していた項目は、「病棟スタッフが問題を感じている患者について相談にのる」「病棟スタッフのオピオイドへの抵抗感を踏まえたうえでの関わり」「各病棟の状況や傾向を理解したうえで関わること」「多職種で問題に取り組めるような連絡・調整」「病棟スタッフとPCT間の情報伝達や調整」「情報共有のため、PCTの行ったことを病棟の記録に残す」であった。役割認識において、80%以上の対象者が「とても重要」とした項目のうち、「できている」という回答が30%以下であった項目は、「病棟スタッフとアセスメント内容や対応方法についての話し合い」「依頼されている患者の情報収集」「薬物使用後の評価方法について、病棟スタッフを教育すること」であった。病棟に対する役割の総合評価において、「できている」という回答は49%であった。 PCT内での役割において、70%以上が「できている」と回答していた項目は、「PCTの各メンバー間の連絡・調整」のみであった。PCT内での役割の総合評価において、「できている」とした回答は66%であった。 患者・家族に対する役割において、70%以上が「できている」と回答した項目は、「患者の全人的なアセスメント」「疼痛や諸症状などの苦痛症状のアセスメント」「疼痛や諸症状などの苦痛症状の変化を継続的に観察する」「患者の心理状態の変化を継続的に観察する」「患者・家族との信頼関係構築のため、コミュニケーションを深める」「患者の希望や意向が尊重されるよう代弁者となる」「症状緩和に関する情報提供や指導を行う」であった。役割認識において、80%以上の対象者が「とても重要」と回答した項目のうち、「できている」という回答が30%以下のものはなく、60%以下の項目は、「家族や経済上の問題など、社会生活上の問題のアセスメント」「患者のspiritualな側面のアセスメント」「家族の心理的支援」「患者にとって最もよい場所で療養できるような支援・調整」であった。患者・家族に対する役割の総合評価において「できている」という回答は60%であった。 |
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図1院内全体に対する役割認識と自己評価 |
|
|
図2病棟に対する役割認識と自己評価 |
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図3PCTに対する役割認識と自己評価 |
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図4患者・家族に対する役割認識と自己評価 |
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7.PCTの看護師としての活動に対する自己評価への関連要因(表4) |
院内に対する役割について、施設の平均在院日数が短く、昨年度のPCTへの依頼患者数が多く、看護師のPCTでの活動期間が長いほど、「できている」と自己評価するものが多かった。 病棟に対する役割については、取得資格が認定看護師や専門看護師になるほど「できている」と自己評価するものが多かった。 患者・家族に対する役割では、緩和医療加算を算定しており、PCTへの昨年度の依頼患者数が多く、教育歴が高いほど「できている」と自己評価するものが多かった。 PCT内での役割について、昨年度のPCTへの依頼患者数が多く、また看護師のPCTでの活動期間が長いほど、「できている」と自己評価するものが多かった。 |
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表4自己評価の関連要因 |
|
院内全体 |
病棟 |
PCT内 |
患者・家族 |
N(%) |
N(%) |
N(%) |
N(%) |
施 設 要 因 |
病床数 |
250床以下 251-500床 501-750床 750-1000床 1001床以上 |
2(100%) 1(13%) 6(38%) 2(50%) 1(25%) |
1(50%) 4(50%) 7(44%) 3(75%) 2(50%) |
2(100%) 6(67%) 11(69%) 2(50%) 2(50%) |
2(100%) 3(33%) 9(56%) 4(100%) 3(75%) |
平均在院日数 |
17日以内 18-21日 22-26日 27日以上 |
10(53%)* 2(20%) 0(0%) 0(0%) |
11(55%) 5(50%) 1(33%) 0(0%) |
16(80%) 4(40%) 3(75%) 0(0%) |
13(65%) 5(50%) 2(50%) 1(100%) |
緩和ケア病棟の有無 |
あり なし |
3(43%) 9(33%) |
4(67%) 13(46%) |
6(86%) 17(61%) |
5(71%) 16(57%) |
在宅療養支援部署の有無 |
あり なし |
10(38%) 2(25%) |
15(56%) 2(29%) |
19(70%) 4(50%) |
17(63%) 4(50%) |
緩和ケアサービスを紹介する部署の有無 |
あり なし |
9(33%) 3(43%) |
14(50%) 3(50%) |
16(57%) 7(100%) |
16(57%) 5(71%) |
緩和ケア診療加算の有無 |
あり なし |
6(40%) 6(32%) |
8(53%) 9(47%) |
10(67%) 13(65%) |
12(80%)* 9(45%) |
PCTへの依頼形式 |
チーム 各職種 両方 |
7(33%) 3(50%) 2(40%) |
9(43%) 2(33%) 4(80%) |
16(64%) 4(67%) 5(100%) |
12(55%) 3(50%) 5(100%) |
昨年度のPCTへの依頼患者数 |
50以下 51-100 101-150 151-200 201以上 |
2(25%)* 0(0%) 3(43%) 3(75%) 2(100%) |
4(44%) 0(0%) 4(57%) 2(50%) 1(50%) |
5(56%)* 0(0%) 6(86%) 4(100%) 2(100%) |
4(44%)* 0(0%) 6(86%) 4(100%) 2(100%) |
個 人 要 因 |
年齢 |
30歳以下 31-40歳 41-50歳 51歳以上 |
2(67%) 5(28%) 5(45%) 0(0%) |
1(33%) 10(56%) 6(55%) 0(0%) |
2(67%) 11(61%) 9(75%) 1(50%) |
3(75%) 11(61%) 7(58%) 1(50%) |
臨床経験年数 |
5年以下 6-10年 11-15年 16-20年 21年以上 |
0(0%) 4(67%) 2(25%) 3(25%) 3(43%) |
0(0%) 2(33%) 4(50%) 7(58%) 4(57%) |
0(0%) 4(67%) 5(63%) 8(67%) 6(75%) |
0(0%) 4(67%) 5(63%) 8(67%) 4(50%) |
教育歴 |
看護学校 短期大学 大学以上 |
4(24%) 1(20%) 5(63%) |
8(47%) 3(60%) 6(75%) |
11(61%) 3(60%) 7(88%) |
8(44%)* 4(80%) 7(88%) |
取得資格 |
なし 認定看護師 専門看護師 |
5(33%) 2(22%) 5(83%) |
5(31%)* 6(75%) 5(83%) |
11(69%) 6(67%) 5(83%) |
10(53%) 6(67%) 5(83%) |
緩和ケア病棟勤務経験の有無 |
あり なし |
5(56%) 7(30%) |
5(63%) 11(46%) |
8(89%) 14(58%) |
7(78%) 12(50%) |
PCTでの活動時間 |
6ヶ月以下 6ヶ月-1年以下 1年-1年6ヶ月以下 1年6ヶ月-2年以下 2年- |
0(0%)* 0(0%) 3(43%) 2(50%) 7(54%) |
3(60%) 4(67%) 2(29%) 2(50%) 6(50%) |
0(0%)** 3(50%) 5(71%) 4(100%) 11(85%) |
2(40%) 2(33%) 5(71%) 3(75%) 9(69%) |
|
表中の数字は、「できている」と「まあできている」を合わせた回答と%を示す。 検定はFisherの直接確率検定もしくはCochran-Armitage傾向検定 *P<0.05**P<0.01 |
|
|
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8.PCTの看護師として活動するうえで困難と感じていること(表5) |
分類されたカテゴリは、〈兼任による活動時間の不足〉〈看護師1人で行う業務量の負担〉〈専従医師不在による迅速な対応の欠如〉〈病棟スタッフとPCTの緩和ケアに関する意識の乖離〉〈病棟スタッフによる緩和ケアの継続〉〈主治医とPCTの調整〉〈自己の能力不足〉〈PCTの能力不足〉〈PCT内で看護師の活動の明確化〉〈スーパーバイザーの不在〉〈PCT活動のサポート体制の不足〉〈システムに関すること〉であった。 |
|
表5困難と感じていることの内容 |
カテゴリー |
内容 |
兼任による活動時間の不足 |
・ |
兼任のため活動時間を確保することが難しい |
・ |
兼任のため時間が不足し、十分なフォローができない |
・ |
兼任のため継続して関わることが難しい |
・ |
兼任のためPCTの他のメンバーとの時間調整が難しい |
|
看護師1人で行う業務量の負担 |
・ |
業務量が多く看護師1人ではマンパワーが不足している |
・ |
依頼件数が多く、PCT以外の院内活動、院外活動も重なり活動が限界に近い |
・ |
事務処理に多くの時間を費やす |
・ |
計画書の作成に多くの時間を費やしベッドサイドケアの時間が不足する |
|
専従医師不在による迅速な対応の欠如 |
・ |
医師が専従でないため迅速な対応ができず患者・家族・病棟の信頼を確保することが困難 |
・ |
身体面を担当する医師が不在のため身体的問題への対応が不十分 |
・ |
精神科医が専従でないためタイムリーに対応できない |
|
病棟スタッフとPCTの緩和ケアに関する意識の乖離 |
・ |
病棟毎のケアや考え方に添った活動への戸惑い |
・ |
病棟スタッフが緩和ケアへ取り組む意識が低い |
・ |
緩和ケアへの意識が低い病棟へのアプローチの仕方 |
・ |
看護師が緩和ケアにおける看護独自の役割への興味がうすい |
・ |
緩和ケア病棟と一般病棟の緩和ケア転科に対する考え方のギャップの調整 |
|
病棟スタッフによる緩和ケアの継続の困難さ |
・ |
PCTの介入がおまかせ状態になる |
・ |
病棟スタッフによる緩和ケアの継続が難しい |
・ |
緩和ケアの病棟での浸透が難しい |
・ |
病棟スタッフとPCTの価値観、看護の方向性が異なりケアが継続されない |
|
主治医とPCTの調整の難しさ (人間関係、治療方針、価値観) |
・ |
主治医との人間関係が難しい |
・ |
緩和ケア医と主治医との人間関係の調整 |
・ |
看護師が希望しても主治医の意向によりPCTが介入できない |
・ |
PCTの意向が主治医と合わない場合の調整 |
・ |
主治医の意向によりPCTが介入できない |
・ |
主治医の意向によりPCTがチームとして介入できない |
・ |
医師が治療重視でQOLに関心がなく話し合いができない |
|
自己の能力不足 |
・ |
資格がないため教育、コンサルテーションに自信がもてない |
・ |
資格がないため深い関わりが難しい |
・ |
自分自身の能力不足への自信のなさ |
|
PCTの能力不足 |
・ |
PCTのメンバー自体が緩和ケアの理解が不十分 |
・ |
PCTメンバーの知識・経験の力量不足 |
|
PCT内での看護師の役割に関すること |
・ |
PCT内で看護の役割を理解してもらうことが難しい |
・ |
PCTの看護師の役割を明確化することが難しい |
|
スーパーバイザーの不在 |
・ |
看護師としてスーパーバイズしてもらえる存在の不在 |
・ |
緩和ケアに関する情報収集やケアの方向性を相談するネットワークがない |
|
PCT活動のサポート体制の不足 |
・ |
医師のサポートが不十分のため病院幹部への働きかけが難しい |
・ |
PCTの活動を理解、サポートしてくれる体制の不足 |
|
システムに関すること |
・ |
病院の方針により、専従看護師として活動することが難しい |
・ |
PCT活動開始以前に緩和ケアを担当する部署があり依頼が少なく認識度が上がらない |
・ |
PCTとしての機能が不十分であるが加算のために活動をしなければならない |
・ |
在院日数が短く病棟スタッフをケアに巻き込みケースマネジメントすることに限界がある |
・ |
看護師は薬剤の処方権がないため薬剤の調整ができない |
・ |
採算をとるための人数をフォローすると本当の看護ができるのかが不安い |
・ |
病院機能評価を受けていないため加算申請ができない |
・ |
外来患者・家族へのかかわりのシステム構築が不十分 |
|
|
|
|
Ⅴ考察 |
本研究では、実際にPCTとして活動している看護師が、どのような役割を重視し、それをどのように評価しているのかを明らかにした。これにより、活動の方向性や評価指標を考えるうえでの資料が得られたと考える。 |
|
1.院内全体に対する役割認識と自己評価 |
院内全体に対する役割認識は総じて高かった。緩和ケアの理念や実践を広めることは、PCTの重要な役割とされている(National Council for Hospice and Specialist Palliative Care Services, 1996; 戸谷, 2004)。わが国においても、PCTの看護師は、患者・家族への個別的な対応だけでなく、院内全体の緩和ケアの質向上を意識していることの表れと考えられた。 院内全体に対する役割認識は高いが、自己評価は全体的に低めであった。院内全体の緩和ケアの質向上は、看護師だけでなくPCTとしての役割といえるが、組織を動かすことは難しく、戦略的にかかわることが必要といわれている(Dunlop RJ and Hockley JM, 1998a)。看護師を含むPCTのメンバーは、組織に働きかけシステムを整備するといった、管理的な視点や能力も必要とされると考えられた。 |
|
2.病棟に対する役割意識と自己評価 |
「依頼されている患者の情報収集」「病棟スタッフとアセスメント内容や対応方法についての話し合い」「薬物使用後の評価方法について、病棟スタッフを教育すること」などの8項目における役割認識が高かった。項目の内容を大きく捉えると、依頼された患者について、PCTが主体的に患者・家族にかかわるというよりも、病棟スタッフに教育的にかかわりつつ、患者・家族に関する問題を明確化し解決するために協働しようとしている意識がうかがえる。これらの項目で自己評価が低かったことは、その重要性を強く意識しているためかもしれない。 「病棟スタッフが問題を感じている患者について相談にのること」については役割意識が高く、また評価も高かった。病棟スタッフが、すでに問題意識を持っている場合は、対応がしやすいものと考えられる。 |
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3.PCT内での役割認識と自己評価 |
「PCTメンバー間の連絡・調整」についての役割認識が高かった。PCTを円滑に機能させることは、看護師の重要な役割であると認識していることの表れと推察される。自己評価は全体として高く、よくできているものと思われた。 |
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4.患者・家族に対する役割意識と自己評価 |
患者・家族の多面的なアセスメントとその継続的観察についての役割認識は高かった。全人的アプローチは、緩和ケアの基本的理念である(WHO, 2002)。PCTの看護師は、この理念を十分に理解したうえで活動していることが確認された。 役割認識は高いが自己評価の低い項目として、「社会生活上のアセスメント」と「spiritualな側面のアセスメント」、「患者にとって最もよい場所で療養できるような支援・調整」があげられた。これらの問題への実際の対応は看護師だけでは難しいが、専門職種へ適切につなげられるよう、アセスメントする力が必要と思われる。 全体として、院内、病棟、PCT内、患者・家族と、どの対象においても役割認識が高かった。これは、PCTの看護師、ひいてはPCT自体が、患者・家族への直接的なケアのみならず、病棟や院内全体においても役割を担うことが量的にも示されたといえる。 総合評価をみると、PCT、病棟、院内の順に自己評価が低くなっていた。これは、かかわる対象が大きくなるほど、成果をあげることが難しいことを意味すると考えられた。 |
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5.自己評価への関連要因 |
院内全体に対する役割の自己評価に関連していたのは、PCTへの依頼患者数の多さ、対象者のPCTでの活動期間の長さであった。これは、PCTとしての活動が院内で定着しているためと考えられる。施設の平均在院日数の短さが関連していたのは、療養場所の選択・調整がPCTの重要な役割のひとつであり(梅田,2000)、これが機能しているためかもしれない。 病棟に対する役割の自己評価の高さに関連していたのは、取得資格の有無のみであった。がん専門看護師や認定看護師など、専門的な教育を受けている方が、同じ医療者である病棟スタッフに自信を持って対応でき、病棟スタッフも聞き入れやすいことが推察される。また、患者・家族への対応だけでなく、他の看護師への指導・教育も、資格に付随した役割として担っているためと考えられる(日本看護協会ホームページ)。 PCT内での役割についての自己評価には、依頼患者数の多さと看護師のPCTでの活動期間が長いことが関連していた。これは、多くの患者に対応する中で、自分がどのような役割を取ればよいのかの理解が深まるためと考えられた。また、PCTでの活動期間が長いことにより、チームメンバー内のコミュニケーションがより円滑になることが推察された。 患者・家族に対する役割の自己評価に関連していたのは、緩和ケア診療加算を算定していること、PCTへの依頼患者数の多さ、教育歴の高さであった。緩和ケア診療加算を算定していることとPCTへの依頼患者が多いことは、院内で緩和ケアに関するシステムが整備されていることを意味すると考えられる。そして、そのようにシステムが整っていると、患者・家族へよりよい対応ができると推察された。教育歴の高さが関連していたのは、自己肯定感が強いためであろう。 |
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6.PCTの看護師として活動するうえで困難と感じていること |
まず、兼任による活動時間の不足やサポート体制の不足など、構造上の問題についての困難があげられた。他の業務と兼務の場合、継続的なかかわりやPCT内のメンバーとの調整が難しいため十分な活動ができず、不全感を抱いているといえる。継続的なかかわりができないことで、病棟スタッフからの評価も得にくくPCT活動が院内に定着しにくいことも推測されるため、専従で活動できる体制が望ましいと考えられる。また、院内におけるPCTの不明確な位置づけやサポート体制の不足も、不十分な活動やチームが定着しないことにつながる。PCTとしての活動を安定した形で、かつ効果的に行っていくためには、院内での緩和ケアに関するシステムの整備が不可欠であることが示唆された。 また、主治医とPCTの調整の難しさがあげられた。PCTの活動において、主治医とのかかわりの難しさは指摘されている(Dunlop RJ and Hockley JM, 1998b)。これは、従来のような診療科の縦割り併診とは異なり、症状マネジメントや療養場所の選択など、主治医と治療方針を共有したうえでのかかわりが必要であることに起因するものと考えられる。主治医ごとに、緩和ケアへの意識や知識、死生観やコミュニケーションスタイルなどが異なるため、患者の状態を共通理解し、目標をすり合わせていく作業は容易ではない。しかし、このプロセスを経ずに、適切なケアを提供することは不可能であり、PCTの看護師には、高度なコミュニケーション能力・調整能力が求められるといえるだろう。 |
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Ⅵ今後の課題 |
今回、PCTの看護師の役割を調査したが、わが国では初めての試みであり、役割項目は十分に検討されたものとはいえない。今後は項目を吟味したうえでサンプル数を増やした調査を行い、役割のさらなる明確化が必要と考える。また、役割を明確化することにより、PCTで活動する看護師に必要な学習内容の提示、PCTの看護師の評価指標作成につなげたい。 |
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Ⅶ参考文献 |
梅田恵.当院における緩和ケアチームと終末期がん患者の療養の場の選択・調整の現状.昭和医会誌 2000; 60(3): 317-321. 梅田恵,大谷木靖子,赤羽寿美,他. 緩和ケアチームで活動する看護師の役割開発~フォーカス・グループ・インタビューの結果から~. 第9回日本緩和医療学会総会; 2004 Jun; 73, 札幌 World Health Organization. National cancer control programmes. Policies and managerial guidelines 2nd edition. 2002. Dunlop RJ and Hockley JM: Achieving change without power: In Dunlop RJ and Hockley JM (eds) Hospital-based palliative care teams. New York: Oxford University Press; 1998a. p.56-65 Dunlop RJ and Hockley JM: Team dynamics: In Dunlop RJ and Hockley JM (eds) Hospital-based palliative care teams. New York: Oxford University Press; 1998b. p.82-109. 戸谷美紀. 緩和ケアチームにおける看護師の役割. がん患者と対症療法 2004; 15(2): 23-27. National Council for Hospice and Specialist Palliative Care Services. Palliative Care in the Hospital Setting. 1996. 西田茂史. 我が国の緩和ケアチームの実態調査. 平成15年度 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団調査・研究報告書 第3号; p7-17. 日本看護協会ホームページ[online]; Available from: URL:http://www.nurse.or.jp/nintei/index.html. Accessed 30 Jan 2005. |
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Ⅷ成果の公表 |
本研究の結果は、第10回日本緩和医療学会で発表予定である。 |