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(2011年7月1日~)
ホスピス・緩和ケアに関する調査研究報告
2002年度調査研究報告


■遺族ケアのニーズと現状に関する基礎調査研究 <3P>

5. 考 察
本研究では、わが国のホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアに焦点を当て、その現状と課題を明らかにすることを目的とした。今回の調査は、2001年12月末日における緩和ケア病棟承認届出受理施設97施設を全て対象とし、89.7%という極めて高い回収率を得たことから、わが国の実態が明確に示されたと考えられる。

ホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの実施状況について
 Matsushima et al.(2002)の報告によると、回答が得られた50施設のうち、37施設(74.0%)が何らかの遺族ケアプログラムを提供していた。今回の調査では、回答のあった87施設のうち83施設(95.4%)が遺族ケアに取り組んでいることが明らかとなり、わが国のホスピス・緩和ケア病棟において、遺族ケアが定着しつつあることが示唆される。 遺族ケアの種類に関しては、88.5%の施設が「カード送付」を行い、74.7%の施設が「追悼会」を実施していた。この結果はMatsushima et al.(2002)の調査報告と同様であり、「カード送付」と「追悼会」がホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの2大プログラムと言える。また、「追悼会以外の会」や「知識や情報の提供」は現時点では一部の施設でのみ実施されているが、23.0%の施設が今後行う予定としており、遺族ケアに対する各施設の積極的な姿勢を窺い知ることができる。

 カード送付に関して、実施していた77施設の97.4%で担当スタッフは看護師であり、Matsushima et al.(2002)の調査報告と同様であった。今回の調査では、送付時期が決まっているか否か、1回のみの送付か複数回の送付か、そして実施時期がいつかという3点で、カード送付の実施方法に施設間で差異があることがあることが明らかとなった。どの方法が最良であるかを一概に決めることは困難であるが、各施設の方法の長短を検討し、将来的により効果的な方法を模索していく必要があると思われる。

 追悼会について、実施していた65施設の83.1%で半年もしくは1年に1回定期的に開催され、全ての施設で案内状を送付し、医師と看護師は共に参加していた。施設間でこのような共通点はあるが、対象とする遺族の死別からの経過期間や参加家族数、プログラムの内容には差異が見られた。参加率は平均で30.2%であることが明らかとなったが、施設間でばらつきがあり、その要因について今後さらなる検討が必要である。
ホスピス緩和・ケア病棟における遺族ケアの実際問題について
 遺族ケアのニーズについて、程度の差はあるが、87%の施設が遺族全体としてのニーズの存在を認めていた。ホスピス・緩和ケアの理念としてだけでなく、臨床現場の実感として遺族ケアの必要性が認められていることの意義は大きいと言える。

 報酬に関しては、43.7%の施設において勤務外で手当はなく、病棟スタッフの「ボランティア」として遺族ケアが行われている現状が明らかとなった。また、教育や専門家との連携は、遺族ケアを行う上での基本事項として重要であるが、「特に行っていない」という施設は少なくなかった。さらに、遺族のリスク評価は欧米では多くのホスピス緩和ケア病棟で行われているが(Robinson, 1995; Walsh-Burke, 2000)、今回の調査によると、明文化した基準に基づく評価はほとんど行われておらず、57.5%の施設では評価自体を行っていなかった。これらの結果から、ホスピス・緩和ケア病棟において、遺族ケアを提供する側の体制は必ずしも十分ではないことが示唆される。

 今回設定した11事項について、それぞれ21.8-67.8%の施設が遺族ケア実施上の困難として回答していた。このことは、わが国のホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの現状において、多様な困難が存在しており、多くの施設が同様の困難を抱えていることを明確に示している。困難の詳細については、ケア提供者の訓練不足や組織としての体制の問題が多くの施設における共通の困難であることが明らかとなった。また、Lattanzi-Licht(1989)やMatsushima et al.(2002)の報告と同様、時間的・人的問題も多くの施設にとっての問題点であった。
ホスピス・緩和ケア病棟における遺族ケアの今後の課題について
 本研究では、ホスピス緩和ケア病棟における遺族ケアの今後の課題について、各施設の意見を集めた。まず、遺族ケアを行うスタッフに関して、現状では看護師が中心となっているが(Matsushima et al., 2002)、将来的には46%の方が遺族ケアの専門スタッフの働きを期待していることが明らかとなった。今後の課題に関しては、9事項を設定して尋ねたところ、各事項について35-71%の方が課題として認識していた。この結果は、ホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアには様々な課題があり、それらは多くの施設によって共通して認識されていることを示している。今後、課題のいくつかに関しては、このような共通認識を土台として、各施設が協力し、わが国のホスピス・緩和ケア病棟全体で一つ一つ克服していくべきであると思われる。例えば、遺族ケアの教育については、緩和ケア教育の一環として積極的に取り組んでいく必要がある。また、リスク評価やニーズ調査、効果の評価に関しては、各施設合同の研究プロジェクトにより、より信頼性の高いエビデンスを蓄積していくことが大切であろう。一方で、個々の施設がそれぞれに取り組んでいくべき課題もあり、施設ごとの創意工夫と努力も求められる。

 ここ数年来、ホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアは着実に浸透し、そして現在、先述の通り9割以上の施設で遺族ケアが行われている。次の段階として、遺族ケアの質の向上が一層求められていくであろう。本研究は、遺族ケアの実施状況を詳細に示すとともに、問題点と今後の課題が山積していることを明らかにした。将来、各施設が合同であるいは独自にそれら一つ一つに取り組み、それぞれの理想モデルを模索することで、わが国のホスピス・緩和ケア病棟での遺族ケアは大きく発展するものと確信している。


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