4. 研究の成果 ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの活動は、患者や家族にとっては必要であると認識されながらも、自己評価も含めて、十分に評価されていない実態が明確になった。懇談会(山口会場)において、話題提供者の磯崎氏より「ホスピス・緩和ケア病棟の現状と展望」1)に示されている「遺族の満足度に寄与する因子調査」についての紹介があった。 特にその内容の中で「スタッフの対応」の満足度で看護師の勤務体制が3交替に比較して2交替の場合、夜勤看護師が3人の場合、ソーシャルワーカーが存在する場合に高かった。また「入院しやすさ」の満足度は、入院期間が長い場合、ソーシャルワーカーが存在する場合に高かった。と報告があった。これは、ソーシャルワーカーのホスピス・緩和ケアにおける役割の重要な証明でもあった。またこれらの結果は、Nina Millettのいうソーシャルワーカーの直接的援助や長期間の治療プロセスやその他の専門的スキルによる関わりの効果の証明でもあるといえる。しかし、この調査結果については東京会場の参加者も含めて、ほとんどのソーシャルワーカーに認知されていなかった。Nina Millettが教育の項で述べていた、ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカーの業務にとって必要な、新しい知識や情報を得るためのソーシャルワーカーの絶え間ない努力もその責任として当然であるが、知識や情報の伝達や共有手段として、またスーパービジョンの場としての組織化もまた必要であることを痛切に感じた懇談会であった。 日本の保健・医療機関におけるソーシャルワーカーの一般的な特徴でもあるが、経験年数が浅く、一人職場を含めての少数職場において自らの業務に自身が持てず、孤立することによりバーンアウトしてしまう可能性も多い。特にホスピス・緩和ケアにおいては、短期間での集中的なケースワークやカウンセリングを含む長期のかかわりなどが求められ、専門的スキルが特に必要とされる。また、緩和ケアチームの中での協働や協議においては、他職種からはその専門性を発揮した活動の有効性が求められる。また、懇談会でも明らかになったが、日本ではボランティアの導入が未だ開発途上であり、ソーシャルワーカーがボランティアコーディネーターとしての役割も期待されている現状がある。未成熟のボランティア活動を支え、発展させる役割は、グループワークという専門的援助技術を発揮できる機会ではあるが、圧倒的に絶対数が少なく他科業務との兼務という職場環境で、これらを担うことは、大きなストレスであろうと推測される。 しかし、このような状況下においても、ソーシャルワーカーは、入院相談や転院前の心理的不安への援助や外泊や在宅ケアのための援助など、患者や家族を支える一連の継続的活動を実践していることもまた、明確になった。2001年度のアンケート調査を含め、業務の標準化が可能であると結論できる。今後は、日本のホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワークの質的発展のために、ホスピス・緩和ケアにおける業務の指針となるべきものが必要であり、ソーシャルワーカーのネットワークのための組織化が検討されるべきであると考える。 5. 今後の課題 今後の課題として、ソーシャルワーカーの指針となり、チームの中でソーシャルワーカーの適切な利用が可能となるよう、ホスピス・緩和ケアにおけるソーシャルワーカー業務の標準化を目的に、現場のソーシャルワーカーの協力を得ながら、ガイドライン作成を行いたいと考えている。内容は、2001年度及び2002年度の業務実態調査及び研究を踏まえて、厚生労働省健康局において改訂版として通知された「医療ソーシャルワーカー業務指針」(2002年11月通知)を基にして、ホスピス緩和ケアの特有性を盛り込んだものとする。 6. 研究の成果等公表予定 本研究の成果を「保健の科学」杏林書院、「ターミナルケア」三輪書房などに公表する予定である。
【参照】
[1] |
「ホスピス・緩和ケア病棟の現状と展望」厚生科学研究「緩和医療供給体制の拡充に関する研究」班 2001年7月 1-132 あゆみコーポレーション |
[2] |
「全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会2002年度年次大会プログラム」全国ホスピス・緩和ケア病棟連絡協議会 2002年7月 36-46 |
[3] |
「Hospice: A New Horizon for Social work」Nina Millett Hospice Care~Principles and Practice~ 1983 135-147 Springer Publishing Company |
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