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(2011年7月1日~)
事業報告
2019年度 第20期事業報告書     (自:2019年4月1日 至:2020年3月31日)



[概 括]

 2019年度は、調査研究事業、人材育成事業、普及・啓発事業および国際交流事業の4領域で16の事業を行った。調査・研究事業では、継続して実施している大規模な調査研究「遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する研究」第4次調査が完了し、報告書を発行した。人材育成事業では終末期医療において課題となっている意思決定支援に関して、医療従事者を対象に研修セミナーを開催した。また、Whole Person Care 関連の書籍として2冊目となる『Whole Person Care 実践編:医療AI時代に心を調え、心を開き、心を込める』を発行した。さらに昨年に続いて「Whole Person Care ワークショップ」のコースⅠ、Ⅱが開講され、Whole Person Care のより深い学びが行われた。国際交流事業では、ホスピス財団 第3回国際セミナーを開催した。また第2期日本・韓国・台湾共同研究事業に続く共同研究事業として、「日本・韓国・台湾・香港・シンガポール共同研究事業」を立ち上げた。その他各事業も計画通りに進められ、ご協力いただいている皆様方に深く感謝する。
 以下、個別の事業毎に実施報告の概要を記した。


【事業報告】

   
〔ホスピス・緩和ケアに関する調査・研究事業〕
1.  ホスピス・緩和ケアに関する調査・研究事業(公募)
2.  遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する調査研究事業
(第 4 次調査・4 年目)
3.  『ホスピス・緩和ケア白書 2020』(特集テーマの概説+データブック)
作成・刊行事業
4.  救急・集中治療における緩和ケアの推進
〔ホスピス・緩和ケア人材養成事業〕
5.  ホスピス・緩和ケアボランティア研修セミナー開催事業
6.  Whole Person Care ワークショップ開催事業
7.  『Whole Person Care:Transforming Healthcare』翻訳事業
 8.  「ともいき京都」におけるがん体験者・市民主体のプログラム創生事業
 9.  緩和ケア・支持療法領域に関わる医療従事者を対象とした意思決定支援に関する
研修セミナーの開催
〔ホスピス・緩和ケアに関する普及、啓発事業〕
10.  ホスピス・緩和ケアフォーラム開催事業
11.  一般広報活動事業
12.  『これからのとき』『旅立ちのとき』冊子増刷
〔ホスピス・緩和ケアに関する国際交流事業〕
13.  第3回国際 Whole Person Care 学会参加
14.  ホスピス財団 第3回 国際セミナー開催事業
15.  APHN関連事業
16.  日本・韓国・台湾・香港・シンガポール 第3期共同研究事業(3年計画の1年目)
  おわりに
             



[事業活動]

1.ホスピス・緩和ケアに関する調査・研究事業(公募)

2019年度の多施設共同研究として公募申請された4件について、事業委員会において審査した結果、次の2件が採択された。(公募制度14年目)
 (1)終末期がん患者の呼吸困難を克服する個別化治療アルゴリズムの開発:
     多施設コホ ート研究による実施可能性と有効性の探索

 (2)専門的緩和ケアを担う看護師に求められるコアコンピテンシー尺度の開発




2.遺族によるホスピス・緩和ケアの質の評価に関する調査研究事業(第4次調査・4年目)

 本事業は第1回目(J-HOPE1)を2006年度~2008年度、第二回目(J-HOPE2)を2009年度~2011年度、第3回目(J-HOPE3) を2012年度~2015年度に実施した。調査研究は主研究と付
帯研究で構成され、世界的に大規模かつ質の高い研究として国際的にも評価されている。主研究では緩和ケア病棟のケアの質を評価し、その結果を各施設にフィードバックすることによりケアの質の改善を促すものである。第4次調査(J-HOPE4)は、4年計画で日本・韓国・台湾でのコホート共同研究と遺族調査を関連させて実施され、本年度2019年度は調査票の回収、データ入力、分析が行われ、J-HOPE4報告書が発行された。また学会発表、および論文化も予定されている。
 



3.『ホスピス・緩和ケア白書 2020』(特集テーマの概説+データブック)作成・刊行事業

 『ホスピス緩和ケア白書』として、2017年度版まで下記の14冊を刊行・配布している。 2020年度版は、「心不全の緩和ケア」をテーマとして発行された。

2004年 ホスピス緩和ケアの取り組みの概況
2005年 ホスピス緩和ケアの質の評価と関連学会研究会の紹介
2006年 緩和ケアにおける教育と人材の育成
2007年 緩和ケアにおける専門性~緩和ケアチームと緩和ケア病棟~
2008年 緩和ケアにおける医療提供体制と地域ネットワークの状況
2009年 緩和ケアの普及啓発・境域研修、臨床研究
2010年 緩和ケアにおけるボランティア活動とサポートグループの現状
2011年 がん対策基本法とホスピス緩和ケア
2012年 ホスピス・緩和ケアに関する統計とその解説
2013年 在宅ホスピス・緩和ケアの現状と展望
2014年 緩和ケアにおける専門医教育の現状と課題&
     学会・学術団体の緩和ケアへの取り組み
2015年 ホスピス・緩和ケアを支える専門家・サポーター
2016年 緩和デイケア・がん患者サロン・デイホスピス
2017年 小児緩和ケアの現状と課題
2018年 がん対策基本法の“これまで”と“これから”
2019年 ホスピス緩和ケアにおける看護
     …教育・制度の現状と展望を中心に
2020年 心不全の緩和ケア…心不全のパンデミックに備えて
    (2020年3月発行)
 




4.救急・集中治療における緩和ケアの推進

高齢化社会の進行に伴い、高齢者の救急搬送が増加する中、集中治療室満床により、生命維持治療を実施しながら転院を強いられることや、生命維持治療の中止、差し控えを行う例が増加している。しかし、その実態は明らかにされておらず、救急・集中治療領域においての基本的緩和ケア・専門的緩和ケアの双方とも十分な教育も実践も行われていない。本研究は、
1)わが国の救急・集中治療領域における緩和ケアと生命維持治療の中止・差し控えに関する実態とunmet needsを明らかにする 
2)救急・集中治療領域において緩和ケアが必要な患者を効果的効率的に抽出することができるCase finding instrumentsを開発する 
3)救急・集中治療領域における基本的緩和ケアのベスト・プラクティスを収集し、基準となる実践の手引きを開発する 
4)救急・集中治療領域における基本的緩和ケアを実践するためのコミュニケーションスキルトレーニング法を開発するため、2019年度から4年間の調査研究を想定している。
 2019年度は事業会議を開催し、今後のロードマップを作成し、実態調査の準備を行った。なお、実調査は次年度に実施することとした。




5.ホスピス・緩和ケアボランティア研修セミナー開催事業

 ホスピス・緩和ケアにおけるボランティアの役割を確認し、そのケアの向上をめざす研修セミナーは2002 年以来継続して日本病院ボランティア協会との共催で実施されている。
 本年度は関西地区で、講演と映画の上映が実施された。

・実施日と場所:2019年6月13日(木)クレオ大阪東部館ホール(大阪市)
・講 師:柏木 哲夫氏(ホスピス財団理事長)
・映 画:「四万十 いのちの仕舞い」
・参加者:99 名

ホスピス・緩和ケアボランティア研修セミナーの様子1   ホスピス・緩和ケアボランティア研修セミナーの様子2




6.Whole Person Care ワークショップ開催事業

 本ワークショップは2012 年より開催され、ホスピス・緩和ケアに従事する医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどのメディカルスタッフの育成を目的としたもので、従来の知識提供型ではなくグループワークを通じてWhole Person Care の学びを深めるものである。
 2019 年度は昨年と同様、コースⅠ、コースⅡを開催した。

・実施日:Whole Person Care ワークショップ・コースⅠ  2019年8月17日(土)
     Whole Person Care ワークショップ・コースⅡ 2019年8月18日(日)
・場 所:千里ライフサイエンスセンター(豊中市)
・講 師:恒藤 暁氏(京都大学大学院医学研究科)
     安田裕子氏(中京学院大学)
・参加者:コースⅠ 20 名 コースⅡ 12 名

Whole Person Care ワークショップの様子1   Whole Person Care ワークショップの様子2




7.『Whole Person Care:Transforming Healthcare』翻訳事業
 2016年度に出版した『新たな全人的ケア』(Whole Person Care 日本語版)に続いて、そのシリーズとしてHutchinson教授が執筆された『Whole Person Care: Transforming Healthcare』(Springer社)の日本語版を出版し、Whole Person Care 事業の充実を図る。
 2019年度に翻訳を完了し、2020年5月発行となった。

 タイトル:「Whole Person Care 実践編:
       医療AI時代に心を調え、心を開き、心を込める」 
 訳  者:恒藤 暁氏
 出  版 元:三輪書店  売価:2000円(税別)
 発  行:ホスピス財団
 



8.「ともいき京都」におけるがん体験者・市民主体のプログラム創生事業
 京都を中心としたがん患者のアドボカシ活動である「ともいき京都」の取り組みは、月に2回の定期的な開催時には1回平均18.4名の参加者と定着してきている。
(1)病院外で提供され
(2)市民が気軽に利用でき
(3)がん体験者と家族同士の触れ合い、語り合い
(4)専門家によるがん相談が受けられるこれまでにない地域コミュニティのスタイルも定着してきた。
 ともいき京都ががん体験者にとって、自分自身の力や価値を再認識し、自分らしく生きていくきっかけとして重要な取り組みであることは、多くのサバイバーやスタッフの参加が続いていることや、参加者の声などから確信することができる。活動5年目の2019年度は、参加者のニーズに合わせた、新たな定期ワークショップが実施でき、新たなスタッフも獲得することができた。
 その結果、参加者とスタッフが能動的に参画し、がんと共に生き、生き抜くための知恵や力を育む場の創生に貢献できた。

実施日時と場所:
1)「ともいき京都」:
   2019年4月~2020年3月各月2回(第2・第4金曜日)14:30~20:00、計24回
   風伝館(京都市中京区)
2)  ともいき京都スタッフ教育研修:
     2019年6月2日(日) 10:30~15:30
   蔵ギャラリー(京都市東山区)

「ともいき京都」の集会の様子   「ともいき京都」が開催されている会場の入り口の様子



9. 緩和ケア・支持療法領域に関わる医療従事者を対象とした意思決定支援に関する研修セミナーの開催

 高齢者の増加や緩和ケアの普及を背景に、エンドオブライフにおいて、本人の意思を適切に反映するための支援の必要性が指摘されている。特にアドバンス・ケア・プランニングの普及が求められる中で、緩和ケアの経験や実践が、より広く社会に貢献することが期待されている。
 しかし、意思決定支援の必要性が認識されつつあるものの、議論の整理はこれからの段階である。特に意思決定能力を評価し、それに応じた適切な支援方法を提供することが、意思決定支援の基本になるが、その評価方法と支援方法を系統立ててまとめる動きがなかった。
 そこで、昨年度、財団助成で開発した意思決定支援用のツールを基本に、意思決定支援の評価と支援方法を体系的に解説するセミナー「今からやってみよう高齢がん患者さんの意思決定」を開催した。

・実施日・場所:2019年8月17日(土) 秋葉原UDX
・対 象: 緩和ケアに携わる医療従事者等
     (医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、ケアマネージャー、行政職等)
・参加者:107名




10.ホスピス・緩和ケアフォーラム開催事業

ホスピス・緩和ケアについての正しい理解を一般の方々へ広く啓発する目的で、財団設立以来継続して実施しており、講演とシンポジウムを軸としたプログラムである。
 2018年度までに31都市で開催した。2019年度は、京都市で一般市民と介護職等を対象としたフォ ーラムとして実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症を防ぐ目的で、開催方法を変更し、講師講演を録画し、ホームページで公開した。

・実施時:2020年2月29日(土)
・場 所:京都大学 杉浦地域医療研究センター
・テーマ:ZENから学ぶケア・パートナーシップのエッセンス
・講 師:コーシン・ペイリー・エリソン氏(ニューヨーク禅センター)
     ロバート・キョードー・キャンベル氏(ニューヨーク禅センター)

緩和ケアフォーラム講演の動画を掲載しているページ




11.一般広報活動事業

 ホスピス・緩和ケアの普及・啓発活動のため、年2回の『ホスピス財団ニュース』の発行を始め、ホームページの充実、更新その他必要に応じて財団のパンフレット改定・刊行などを行った。


ホスピス財団ニュース37号の表紙 ホスピス財団ニュース38号の表紙




12.『これからのとき』『旅立ちのとき』冊子増刷

 ホスピス・緩和ケアの普及・啓発活動のため、年2 回の『ホスピス財団ニュース』の発行を始め、ホームページの充実、更新その他必要に応じて財団のパンフレット改定・刊行などを行った。


『これからのとき』、『旅立ちのとき』の表紙




13.第3回国際 Whole Person Care 学会参加

 カナダ・モントリオールのMcGill大学にて隔年で開催される、国際Whole Person Care学会への参加は、ホスピス財団のWhole Person Care 教育プログラムを推進、発展させるために有用である。
 本年度は、1名が学会参加した。

 ・実施日:2019年10月17日(木)~10月20日(日)
 ・場 所:カナダ・モントリオール McGill 大学


第3回国際 Whole Person Care 学会のチラシ




14.ホスピス財団 第3回 国際セミナー開催事業

 ホスピス・緩和ケアに関する、先進情報の入手することは、わが国におけるホスピス・緩和ケアの質の向上に寄与することから、海外より講師を招聘し、定期的に国際セミナー開催事業を行っている。
 2019年度は、カナダの McGill 大学の臨床心理士として Whole Person Care プログラムに関わっている Dobkin 氏を迎え、「マインドフルネスに基づく医療の実践」というテーマで国際セミナーを開催した。

・実施日と場所:
               東京 2019年9月7日(土)13:30~18:30 品川インターシティホール 会議室
               大阪 2019年9月8日(日)13:00~18:00 梅田スカイビル・スカイルーム
・テーマ: マインドフルネスに基づく医療の実践
・講 演:Patricia L. Dobkin 氏(McGill 大学医学部内科学 准教授)
・参加者:東京会場 61名
     大阪会場 49名
第3回 国際セミナーの様子1   第3回 国際セミナーの様子2




15.APHN関連事業

 当財団はシンガポールに本部を設置するAPHN(Asia Pacific Hospice Network)の会員として、当財団設立以来その活動を支援している。2019年度は8月にインドネシア・スラバヤで開催される第13回アジア太平洋ホスピス大会(APHC)に参加した。
 また従来、 APHC開催時に「HINOHARA LECTURE」として海外演者招聘費として、笹川記念保健協力財団が寄付をしていたが、日野原先生が逝去されたことから、その事業をホスピス財団が引き継ぐこととなり、8月開催のAPHCにおいて協力した。

・実施日:2019年8月1日(木)~8月4日(日)
・場 所:インドネシア・スラバヤ

インドネシア・スラバヤで行われたAPHNの様子1   インドネシア・スラバヤで行われたAPHNの様子2




16.日本・韓国・台湾・香港・シンガポール 第3期共同研究事業(3年計画の1年目)

 2017年に欧州緩和ケアネットワーク(EAPC)からACPの定義と推奨に関して国際的な専門家の合意が発表されたが、個人の自律性と同時に患者・家族の和を重んじる儒教文化の残るアジア諸国には必ずしもそぐわないような項目も含まれ、アジアにおけるACPの望ましい在り方に関しては、国際的にも合意が得られていない。
 本研究の主目的は、日本・韓国・台湾・香港・シンガポールのACPの専門家の間で、これら5か国に適切なACPの定義と推奨の国際合意を得ることである。初年度の2019年度は、5か国の多職種で構成される国際的なACPの専門家により、本研究のタスクフォースを組織し、アジア太平洋ホスピス緩和ケアネットワーク(APHN)とも連携し、探索的なWEB調査を行い、ACPの定義、推奨項目について、EAPCの項目をたたき台にしつつ、アジアの文化に照らし合わせて大幅な加除修正を行い、デルファイ項目を作成した。アジアでは患者・家族等両者の関与が重要であること、法制化や指針作りの必要性が唱えられていることが明らかになった。今後は、デルファイ項目の各国語への翻訳を行い、デルフ ァイパネル専門家を対象に、WEB調査を行う計画である。




おわりに

 2019年度は前述の16事業を実施した。従来から継続して実施している事業に加え、人材育成に関しては、終末期医療で課題となっている意思決定支援について研修会を開催し、またWhole Person Care の新しい書籍の出版がなされた。国際交流事業では、日本・韓国・台湾・香港・シンガポール共同研究が開始され、これら5か国での適切な ACP の国際的合意を探索することとなった。
 一方で、年度末から新型コロナウイルス感染症の問題が発生し、2020年度の当初計画で挙げられていたセミナーなど多人数での集会が実施できなくなり、延期や中止をせざるを得ない状況となった。このため2020年度は、調査研究事業を中心とした事業に注力する予定である。