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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第8章■ 家族のケア

 家族は生活を共にする近親者で構成されており、情緒的に深い関係で結ばれている小社会集団である。がん患者のケアにおいては、血族関係や婚姻関係にかかわらず家族であるとの認識のもとで生活を共にしている人々も家族と位置付け、ケアの対象とする必要がある。

 家族の一員ががんと告げられ、とりわけ終末期であると知らされたときの衝撃はきわめて大きいが、家族は患者のよき理解者であり、患者が直面している苦難に患者と共に力を尽くして立ち向かっていく。患者は家族にとってかけがえのない存在なのである。
 そのため、家族をケアし、家族が受けている衝撃を和らげることは、患者が療養中の日々を充実して過ごすためにきわめて重要である。このことを念頭に、家族に対するケアを意図的、計画的に行う。

I.家族の全体像を把握し、予防的に関わる

1.家族の構造
 患者を中心に家族構成員の続柄、年齢、性別、職業、同別居などを家系図として描き、家族の構造を把握する。

2.家族の発達プロセスと現在抱えている発達課題
 結婚、子どもの誕生・養育・独立、職業からの引退、老後の生活など家族はライフサイクルに応じた発達段階を経て現在に至っている。そのプロセスから家族の成長と問題解決能力を推測することができる。そのうえで現在抱えている発達課題とそれに対する取り組み方を理解し、家族が抱えるさまざまな問題を把握する。

3.家族構成員の役割と家族機能
 家族構成員それぞれがどのような役割を果たし、家族機能を維持してきたかを把握する。家庭生活維持機能、経済的機能、社会的機能、コミュニケーション機能、問題解決機能などが、どのメンバーによってどのような方法で担われているかを知ることで家族内の力関係、患者にとってのキーパーソン、患者の介護に主役を果たす人、情緒的支援者などが明らかになる。家族の一員ががんを発病し、とくに終末期に至っていることから家族機能に円滑さを欠いているときには、家族と話し合い、これまで担ってきたそれぞれの役割を調整する。

4.支援ネットワークと社会資源の活用
 本来、家族には家族内部の有形、無形の資源を活用して自律的に問題を解決する機能が備わっている。家族の一員ががんになったとき、終末期に至ったときには、家族内部の資源に加え、活用できる支援ネットワークなどの社会資源を動員して可能な限りすみやかに問題解決できるよう支援する。

II.患者の病状の見通しと心身の変化について早めに説明する

1.主治医が説明すべきこと
 家族が出来事にうろたえることなく冷静に対処できるよう、主治医は患者の病状の見通しを早めに説明する。終末期患者の場合にはがん病変に対する治療はもはや効果をもたらさないこと、急変がありうること(第2章を参照)、急変時の対応法や連絡法、残された期間のおよその予測も伝える。そのうえで、諸症状のマネジメントや精神的ケアは最後まで行えることを伝える。

2.説明の席に参加する人
 家族への説明の席には家族全員の参加が望ましいが、少なくともキーパーソンと介護の主役を果たす人の参加が必要である。この席に患者が参加する意味は大きいが、患者の参加は患者の意志に従う。担当看護師が同席して、主治医の説明後に諸問題について相談に応じ、患者と家族を支援していく。

3.説明の方法
 説明には分かりやすい言葉を用い、必要に応じて図などを用いる。説明を終えるときには「質問はありませんか」「他に聞きたいことがありますか」と必ず質問を促し、いつでも相談に応じる用意があることを伝える。

4.看護師による説明
 がん患者の心身の状況は安定しているとは限らず、とくに終末期患者では日々変化する。
 入院患者の場合、担当看護師は面会に訪れた家族が患者の心身の変化に不安を持たずに患者と接することができるように、家族不在の間の状況をきめこまかく説明する。家族の不安は患者の不安を強めるからである。

III.家族のニーズに気付き、対応する

1.そばにいて役に立ちたい
 多くの家族は、患者のそばにいて役に立ちたいと思っている。とくに残された期間が限られている入院患者の家族の場合には、面会時間を柔軟に設定し、患者のそばにいることを可能な限り許容する。そのうえで、家族にできる介護方法について指導し、家族が自信をもって実施できるよう支援する。

2.感情を受け止めて欲しい
 家族は辛い感情を主治医や担当看護師に受け止めて欲しいと思っている。とくに患者のそばで毎日の介護を担当している家族はその思いが強い。介護に対する労いの言葉をかけること、必要なときには、辛い感情を表出してもらうこと、介護中に生じた疑問に気軽に応じる姿勢を示すことにより、家族は新たな気持ちで介護を続けることができるようになる。

3.疲労への配慮
 患者の介護を担当し続けている家族の疲労に注意する。緊張のあまり、疲労を訴えない家族が多いが、疲労が蓄積されないよう、また必要な休息が取れるよう調整する。

4.幼い子どもへの対応
 幼い子どもは、かけがえのない親に死期が迫っていることを察知しているのに、情報を知らされず、親の入院中は面会も制限されていることが多い。子どもの年齢に合わせた分かりやすい表現で事実を伝え、親との交流が十分できるようにする。親の死から遠ざけられた子どもは、親の死に十分に関われなかったことに罪悪感を持ったり、疎外感を抱いたりするため、成長してからも生や死について向き合えなくなる恐れがある。
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