1)排尿遅延と尿閉
■診 断
全身衰弱や便秘などの全身的な原因、排尿に関係する神経の障害、投与中の薬の膀胱機能への影響、前立腺肥大などによる尿道狭窄のいずれかひとつ、あるいは複数が原因となっている。原因となる薬は、モルヒネ、フェノチアジン系の薬、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬などである。
次の点に注意して問診する。
尿量、尿の濃度、尿放線の勢い。
腹痛、便秘の有無。
尿道への器具の挿入、尿道炎など感染症の既往。
血尿、排尿の突然の中断や減少。
次に、腹部の触診、直腸指診、尿検査を行う。
必要に応じて超音波検査、腹部単純撮影を行う。尿流量検査は専門医に依頼する。
■治 療
薬以外の治療法:
尿道カテーテルの挿入(原因の治療が可能な場合は一時的な留置、原因が取り除けない場合は長期間の留置となる)。
薬による治療法:
可能な限り投与中の抗コリン作動性薬を中止する。
コリン作動性薬:ベタネコール30~50mg/日の経口投与。
αブロッカー:プラゾシン0.5~1.5mg/日、タムスロシン0.2mg/日の経口投与。
2)尿失禁
■診 断
尿失禁とは、不随意に排尿が起こってしまう現象で、次の4つのタイプに分けられる。
尿意切迫を伴う急迫性尿失禁(Aと略)
溢尿を伴う尿失禁(Bと略)
完全尿失禁(Cと略)
緊張性尿失禁(Dと略)
(A)は排尿筋と膀胱頸部の括約筋の協調作用障害によって起こる。膀胱炎、多尿、括約筋の機能低下が原因である。
(B)は尿閉が起きたために、尿が尿道から漏れだすことによって起こる。脊髄圧迫に伴う膀胱障害などが原因となる。
(C)は括約筋機能がすべて失われたために起こる。仙骨へのがん浸潤、手術による神経損傷などが原因となる。
(D)は女性におこり、括約筋機能が低下したため咳やくしゃみで尿失禁が起こる。多産や子宮摘出術などが原因となる。
■治 療
薬以外の治療法:
定期的に排尿するよう指導する →(A)(B)(C)の場合
尿道カテーテルの留置 →(B)(C)の場合
失禁用パッドの使用 →(C)(D)の場合
薬による治療法:
オキシブチニン2~6mg/日、フラボキサート200~600mg/日の経口投与
→(A)の場合
プラゾシン0.5~1.5mg/日の経口投与 →(B)の場合
3)血尿
■診 断
原因は、尿路感染症、尿路結石症、腫瘍、がん化学療法、放射線照射、出血傾向などである。
診断は尿検査、超音波検査、膀胱鏡検査を組み合わせて行う。高度な血尿が持続する場合は、専門医に依頼して硬性膀胱鏡検査を行う。
■治 療
原因の治療:
原因の除去が可能ならば、それを優先させる。例えば、腫瘍からの出血ならば、電気凝固法や放射線照射による止血を試みる。
薬による治療法:
血尿が中等度の場合:カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム30~90mg/日、エタムシラート1,500~3,000mg/日の経口投与。
血尿が高度な場合:1%ミョウバン液の膀胱内注入を試みる。
薬以外の治療法
血尿が高度な場合、24~26Fr の多孔式カテーテルを挿入し、生理食塩水で洗浄して凝血を除去する。次に3ウェイ・カテーテルを留置し、持続洗浄を行う。