■第4章■ 痛みのマネジメント
(鎮痛薬については、2013年9月時点での情報を一部追加記入しています)
I.がんの痛みのマネジメントにおける鎮痛薬治療
- がん患者の痛みは消失させることができる症状であり、消失させるべき症状である。
- 痛みが消失すると、がん患者は明るい表情を取り戻し、前向きの姿勢で日々を過ごすようになる。その実現を目指し、がん医療に従事しているすべての医療職が、がんの痛みのマネジメントを学び、互いに協力し、実践に努力を積み重ねるべきである。
- がん患者の痛みを直接対象とする最初の治療法は鎮痛薬による治療法である。適切な薬剤、投与量および投与間隔の選択により、多くの場合、有効な治療結果が得られる。
II.がん患者の痛みの発生頻度と特徴
- 進行がん患者の2/3以上では痛みが主症状となる。がん病変の治療を受けているもっと早い病期の患者の1/3にも痛みが発生する。
- 大多数が持続性の痛みであり、複数の痛みが発生することも多い。
- 50%は強い痛み、30%は耐えがたいほど強く、不眠をもたらし、食欲を低下させ、患者の日々のささやかな楽しみから自己実現に至るQOLのすべての側面を妨げる。
- 身体的な原因によって起こる痛みであるが、精神的因子(絶望感、死に対する恐怖、不安、抑うつなど)、社会的因子(病気がもたらす経済面の困難など)、スピリチュアルな因子が加わったトータルペイン(全人的な痛み)となる。
III.痛みの分類 1.原因別分類
- がんの浸潤、転移、圧迫などが直接原因となった痛み
- がん病変の治療に起因した痛み(例えば、手術創瘢痕部の慢性疼痛、がん化学療法後の神経障害性の痛み)
- 全身衰弱に関連した痛み(例えば、褥創や便秘に伴う痛み)
- がん自体にもがん病変の治療にも関連のない痛み
2.神経学的発生機序別分類
- 侵害受容性の痛み(nociceptive pain)
・痛覚神経終末への刺激で起こり、鎮痛薬がよく効く。 がん患者にもっとも多い痛みである。
- 神経障害性の痛み(neuropathic pain)
・神経組織の損傷により、その支配領域に起こる。 鎮痛薬があまり効かない神経障害性の痛みには、鎮痛薬と鎮痛補助薬( adjuvant drugs)の併用が必要となる。 ・表在性で「灼けるような」、「しびれるような」、「放散するような」、「ピリピリ、ヒリヒリするような」、などと表現され、アロディニア(衣類が触れただけでも痛みが起こる現象)やトリガー・ポイントを伴うなどの臨床的特徴から診断できる。 ・多くは侵害受容性の痛みと混在している(例えば、骨盤内がん浸潤による痛み)。 ・交感神経が関与した痛みも発生するが、頻度は少ない。神経障害性の痛みと性状が似ているが、血流分布域に一致して起こる。交感神経ブロックが有効であるが、がん病変の存在がその実施を妨げることがある。
IV.痛みのマネジメントの基本方針
- 患者からの痛みの訴えには直ちに対応し、がん病変・痛みの原因病変への直接・間接的な治療中であっても、直ちに痛みを直接対象とした治療も行う。痛みからの解放は、患者の治療意欲を増進する場合が多く、治療に対する姿勢へのポジティブな影響を及ぼす。
- 早期対応には、痛みの有無を患者に定期的に尋ねる必要がある。痛みを体温、呼吸、脈拍、血圧に次ぐ5つ目のバイタルサインととらえ、痛みの有無や強さを体温表に記録することが推奨されている。
- 痛みの強さや治療効果の最良の判定者は患者であることを銘記し、患者との意思の疎通を維持し、看護師からの情報にも耳を傾け、鎮痛薬の効果と副作用をくり返し確認し、必要に応じて処方内容を調整して治療成果の向上を目指す。
- 痛みの除去を目的とした治療法として最初に選択される治療法は、鎮痛薬による治療法である。一部の痛みでは2つ以上の治療法を組み合わせると良好な効果をもたらす。例えば、骨転移痛に対する鎮痛薬と放射線照射の組み合わせである。
- 専門知識が豊富な同僚医療従事者の助言を早めに求める方針をとる。
V.痛みのマネジメントの目標設定
治療目標を患者と共に設定し、患者が目標を理解していることが最良の成果につながる。「痛みの軽減」を治療の最終目標とすると痛みが残存するため、痛みに対する患者の恐怖と不安が消えず、QOLも改善しない。 痛みのマネジメントの最終目標は、必ず「痛みの消失が維持され、患者の生活状況が平常に近づくこと」とし、この最終目標を患者と共有し、段階的に最終目標に向かう:
まず、痛みに妨げられない夜間の良眠の確保 次いで、昼間安静時の痛みの消失 そのうえで、体動時の痛みの消失
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