■第3章■ 病名、病状、予後の説明 I.病名を伝える いわゆる「がんの告知」と呼ばれてきた病名開示の是非に関する議論は、1960年代頃から長年続けられてきた。従来、がんは痛みに苦しみながら死を迎える不治の疾患と考えられ、がんであることを患者に伝えると、心に強い衝撃を与え、生きる希望を奪うとして病名を患者本人に伝えることを敬遠してきた。 医学の進歩とともに、早期に発見して適切な治療を行えば、がんは治癒が可能な疾患となり、たとえ完治できなくても、痛みをはじめとする諸症状を緩和する医療の発達によって、辛い諸症状から解放された状態で過ごせるようになった。こうした医療の進歩とともに、患者自身による自己決定、インフォームド・コンセント、セカンド・オピニオンなどが重視され、これを尊重した医療を実践するには、がん患者自身に病気についての真実を伝えることが不可欠となった。ただし、患者が事前に「病名を知りたくない」という意向を示した場合や判断能力が十分でない場合には慎重に対処する。 予後の期間を数字をあげて正確に予測することには限界がある。予後を伝える際には、医療従事者としての見通しを、患者が知りたいと思っている情報量を見極めながら、適切に提供するよう配慮する。不明確な期間よりも、予後が「限られている」ことを伝えることが重要であり、例えば、病状の変化を月単位、週単位といった目安で伝えるよう配慮する。 真実を伝えられたがん患者に対しては、緩和ケアの実践が不可欠である。痛みをはじめとする身体的諸症状のマネジメントを十分に行い、精神的苦しみへの対応、社会的な問題や家族の悩みの解決も援助していく。たとえ終末期のがん患者であっても、家族や医療従事者との信頼関係を保ちながら真実のなかで過ごすことは、尊厳ある生き方を全うするうえで重要である。 III.病名、病状、予後を伝えることの利点
1.病名、病状を伝える時の基本姿勢 医師は十分な話し合いができるように時間を設定し、患者が説明の場に同席させたいと考えている人を患者に確認しておく。そのうえで患者のプライバシーが確保できる場所を使用し、患者が十分に感情を表出できるよう配慮する。 患者本人に重要な情報を伝える際には、担当看護師の同席が大切である。看護師は立会人としての役割だけでなく、説明を受けている患者や家族の反応を観察し、医師との話し合いのあとで患者の理解度を把握し、補足説明をし、必要があれば担当医からの再説明を促す役割を果たす。 2.病状、予後をどこまで伝えるか 患者が求めている情報量に応じた説明を心がける。一度の話し合いで、すべてを説明しようとせず、専門用語を避け、分かりやすい言葉で、患者と視線を交わしながら、少しずつ説明する。事実を受け止めるためには、時間を要することを理解し、話し合いを繰り返す用意があることを伝え、質問も促す。 |
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