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(2011年7月1日~)
がん緩和ケアに関するマニュアル
■第2章■ がん患者の特徴

 がんの診断や治療開始前後の時期から、がん患者は身体的苦しみや精神的苦しみを体験する。病状の進行に伴い苦しみの程度、種類、頻度は大幅に増し、日常生活も障害され、緩和ケアの必要性が増大する。

I.身体的苦しみ

 身体的苦しみとしては、痛み、全身倦怠感、食欲不振、便秘、嘔気と嘔吐、不眠、呼吸困難などがある。身体的苦しみは最後の数か月に増悪することが多い(図2-1)。耐えがたい身体的苦しみは、人間としての尊厳を損なわせ、周囲の人々との交わりを困難にする。

 終末期では急変が7人に1人の割合で起こる。急変の主なものは、出血、呼吸不全、心不全、消化管穿孔などである。緩和ケアにおいても、急変に備えた24時間対応体制が望ましい。家族への病状説明の際に、急変の可能性があることを予め伝え、対処法などについて事前に相談し、在宅患者の場合には連絡方法についても伝えておく。


II.精神的苦しみ

 精神的苦しみとしては、恐れ、怒り、不安、孤独感、抑うつ、せん妄などが起こる。また、病状の悪化に伴い、社会的役割、地位、所有物などの喪失を体験するようになり、精神的負担はさらに大きくなっていく。

 精神的苦しみへの対応では、不安、抑うつ、せん妄の診断と対応がとくに大切である(第6章を参照)。不安は、進行がんや終末期がんの患者では臨床的に気づかれにくいことが多い。不安によって起こる身体的症状が、疾患由来の身体的症状と鑑別しにくいからであり、正常範囲内の不安と病的な不安との境界が不明瞭なこともある。患者は病状の変化に伴い、心身の不安定さや将来の不確実性さなど多くの問題にも直面する。

 抑うつは悲嘆との鑑別がむずかしいことがある。不治の疾患を持つ患者には、絶望感、無力感、死の願望などがみられることがあり、やはり抑うつとの鑑別がむずかしい。苦悩の当然の結果であると考え、医療従事者だけでなく患者も抑うつ的な気分は仕方がないと諦めていることが少なくない。治療可能な抑うつが見逃されている患者や、身体的諸症状のマネジメントが不十分なために抑うつに陥っている患者もいる。

 せん妄は急な発症を示し、短時間で増悪する全般的な認知障害を特徴とし、身体的異常の強い患者に起こる精神症状の一つである。せん妄が出現すると、患者のQOLと尊厳は著しく低下し、家族の苦悩を増大させることになる。せん妄の治療は、その原因の究明と除去であり、投与中の薬を再検討する必要もある。

III.日常生活の障害

 全身衰弱や麻痺のために移動や排泄などの日常生活動作が障害されると、患者の苦悩は深まり、援助や介護が必要となる。日常生活の障害は最後の数週に増悪することが多い(図2-2)。身体機能の喪失をどのように患者自身が受け止め、どのような援助なら受け入れられるかは、その患者の価値観と尊厳にかかわることなので、この点に十分配慮する(第7章を参照)。


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