今月のコラム |
静岡県立 静岡がんセンター ホスピス財団事業委員 福地 智巴 |
夏の風物詩と言えば『花火』。多摩川沿いに住んでいると、夏に数回は土手から近隣の花火大会を鑑賞する機会に恵まれる。人ごみを好まない私だが、今年はあえて土手に出て花火を鑑賞することにした。手ごろな場所を鑑賞ポイントに決め、打ち上げられていく花火の多様さ、美しさ、儚さに目を奪われていると、一組の家族が私の前の場所を鑑賞ポイントに決めたようだった。車いすに乗った女性の目線からもっとも花火が見えるように、その女性の息子さんや娘さんだろうか、微妙に車いすの位置を移動させながら、やっと落ち着ける位置を得たようだった。花火が空を彩るたびに、娘さんらしき人(ここでは仮に娘さんとしておく)が「見える?」「きれいだね」と声をかけていたが、車いすの女性は身体を斜めに傾けたまま、声を出すことも身体を動かすこともなかった。後方にいる私からは、花火にも娘さんにも反応しているようにも、していないように見えた。 ふと、これまで勤務してきた各医療機関の緩和ケア病棟での納涼会を思い出した。スタッフと一緒に浴衣を着て、患者さんやご家族と一緒に楽しんだ花火と火薬の匂い。煙にむせながら、『今』だからこそ一緒に楽しめる花火なのだという想いが暗黙の了解だった病棟の庭での小さな花火大会の記憶。 目の前の車いすの女性は、今、どんな想いで花火を感じているのだろう...。そんなことを想っていると、しばらく空が静かになった。すると、私の後方にいた小さな女の子が「終わっちゃったの?」とお母さんに訊ねる声がした。お母さんの「まだよ」という返事に続くように花火があがり始めた途端、小さな女の子が「がんばれー、がんばれー」と大きな声を発した。花火がきれいに咲くように叫んだのか、一瞬の命が少しでも続くようにと叫んだのか、ただ応援したくなったのか...。その小さな女の子が何に向かって「がんばれー」と言ったのかは女の子にしか分からない。もしかしたら思わず声が出てしまっただけかもしれない。けれど、その「がんばれー」の声に、私の前方にいた車いすの女性の身体は確実に反応した。私にはそれがはっきりと分かった。女の子の声に反応したのか、言葉に反応したのか、言葉に込められている想いに反応したのかは分からないけれど。 土手を歩きながらの帰り道、花火大会の場面で、車いすの女性に対してホスピスケアは何にあたるのだろうと考えた。観る人を和ませる花火だろうか、見える位置を調整したり、「きれいね」と声をかける娘さんだろうか、美しく儚いものに「がんばれー」と叫んでいた小さな女の子だろうか、同じ時間と空間を共有していた鑑賞者の人々だろうか、それとも花火の背景にあった空だろうか。 車いすの女性と小さな女の子と共有したひとときは、私には花火よりも鮮やかで余韻を残すギフトであった。 |
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ホスピス・緩和ケアフォーラム2016 in 各務原 | ||||||
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第9回Whole Person Careワークショップが開催されました | |||
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『新たな全人的ケア・・医療と教育のパラダイムシフト』 好評発売中 | ||||||
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Hutchinson 教授による『『新たな全人的ケア』 出版記念講演会 |
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Ellershaw 教授による講演会&シンポジウムのご案内 | |||||||
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J-HOPE3が刊行されました | ||||||
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ホスピス・緩和ケア白書2016が発売中です | ||||||
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『旅立ちのとき・・寄りそうあなたへのガイドブック・・』が発行されました | |||||||
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個人賛助会費と一般寄附が、オンライン(クレジット決済)でも支払いが出来ます | ||||
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★8月号(VOL.28)の訂正とお詫び | |
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情報コーナー |
ヴォーリス記念病院ホスピス希望館 10周年記念講演会 | ||||||
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書評 | ||||||
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ホスピス・緩和ケアに関する新聞記事の紹介 | ||||||
・山谷を終の棲家とした通称「山谷玉三郎」さんが逝かれた。山谷は、流れ着いたふるさと、労働者を舞で励まし、最期は酒が友達、踊りが麻酔という彼の壮絶な波乱万丈の人生を追った記事
(毎日新聞 2016/8/28 掲載) |
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・在宅死の比率の高い、横須賀市で、在宅医療の充実に取り組む現場を取材した記事
(毎日新聞 2016/8/21 掲載) |
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・高齢者介護施設での看取りの課題、救急車を呼ぶべきか?また、最期まで住み慣れた地域にいたいとの希望への対応、そして救急車を呼ぶべきかどうかとの疑問・・・高齢者の救急搬送が増えているが、救命か看取りかという複雑な問題を抱えていることを紹介した「救急と看取り」をテーマにして連載記事の後編
(読売新聞 2016/8/7・14・21 掲載) |
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・グリーフケアの学びや、デスカフェの活動を通して、死と悲しみに向きあう心構えなどを紹介した記事
(毎日新聞 2016/8/20 掲載) |
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・75歳以上の高齢者のがんの治療や検診のあり方を紹介した記事
(読売新聞 2016/8/15 連載) |
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・AYA世代(思春期・若年成人)のがん患者を悩みや、その方をサポートする体制、活動する人々を紹介した記事
(読売新聞 2016/8/10 夕刊掲載) |
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・ドクター元ちゃんがんになる。 金沢赤十字病院副院長の西村 元一医師が、自らのがん体験を綴った連載記事 4回目 “闘病支えるチーム医療” (毎日新聞 2016/8/7 掲載) |
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