新型コロナウイルスに罹患された方々、またコロナ禍により生活面等で困難な中におられる方々へ、
心よりお見舞い申し上げます。 また感染症対策に尽力いただいている保健、医療従事者の方々へ心より感謝申し上げます。 ホスピス財団 理事長 柏木 哲夫
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ホスピス財団 元会長、渡辺 滉様がご逝去されました | |||||
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今月のコラム |
兵庫大学大学院特任教授
ホスピス財団 評議員 窪寺 俊之
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コロナ禍・ホスピス・退修会
「逃げる」ことには良いイメージはない。弱虫、敗者、責任放棄、無責任。どの言葉も消極的評価である。確かに、「逃」にまつわる言葉は、逃走、逃避、逃亡などイメージが悪い。事件現場から犯人は逃走した。彼は責任を放棄して逃避した。例えば、「逃避」を調べてみると「自分自身がしなければならない事から避けて離れる」(学研『改訂新版 漢字源』)とある。「自分自身がしなければならない事」とは何だろうか。 「逃げる」ことは、そんなに悪い事なのか。人間に備わった重要な能力なのではないか。人間を生物として捉えれば自分の生命を保持するための非常に大切な機能なのではないか。例えば、真正面から戦ったら傷ついたり死ぬとわかれば、「逃げる」ことで自分の生命を守ることができる。逃げずに生命を落とせば全ては終わりである。生命を投げ出して悪と戦うことを正義などと賞賛する向きもあるが、それだけが最善だろうか。「逃げること」は自己保存の機能であり、「自分自身がしなければならない事」の最たるものではないか。自分の生命を守ること以上に大事なことがあるだろうか。 「逃げる」ことを生命維持の機能と理解すると、沢山のことが見えてくる。「逃げる」には、直面した状況がどの様な状況なのかを判断する能力が求められる。自分の能力を超える状況が面前にあると判断するから「逃げる」のである。逃げる先(例えば、警察、避難所、高い山など)を判断する能力も求められる。この様な状況判断を瞬間的にして「逃げる」のである。 人類史には、人間が逃げることでしか、生命を維持できなかったことが多くある。火山噴火、地震や津波、あるいは水害などから逃げるから生き残り生命を繋いでくれたのである。 「逃げる」行為は身体的だけではなく、精神的思考の活動にも当てはまる。「逃げる」ことは、消極的ではなく、むしろ積極的意味を持っているのである。「逃げる」ことは、対象から離れることである。古い価値観を捨てて新しい価値観を持つことなどは重要なことである。古いものに執着する、固定化する事を辞めるから自由になれるのである。そこから無限の可能性が開かれるのである。新しい発想には一旦既存の考え方を捨てることが必要である。そこには古い思考から「逃げる」ことが含まれていると言える。 ホスピスが掲げる全人医療には、治療中心の医療だけが医療だという観念を捨てたから生まれた。疾患の治療よりも大切なものがあると気付いた。それは病人の「いのち」である。病人の「いのち」を支えることを医療の目的とする過程には、古い医療概念を捨てて患者の全存在を支える医療への転換が必要だった。 人類は新型コロナ・ウイリス(COVID 19)の世界的パンデミックに苦慮している。「三密」を避け、マスクの使用が叫ばれている。更に、不要不急の用件以外は、家に閉じ籠る様に要請されて、人々は人と対面の交流を失った。人との交流で得られていた温もりや自分を見直す機会を失い自分に閉じ籠る時間を過ごしている。精神的安定を失いそうである。 私が関わるキリスト教会でも「三密」を避けて対面の礼拝ができないことろが多い。顔を合わせることで気持ちが伝わり人への配慮ができたが、それができなくなったのが非常に残念である。 キリスト教ではリトリート(retreat)と呼ばれる退修会がある。夏の一時期、山や海の自然豊かな場所に退いて神を静かに瞑想することである。キリスト教では修道院などがあり、砂漠や孤島などに退いて自分を内省し、聖なるもの真なるものに触れて本当の自分に出会おうとした。 そこで得たものは何んだったのだろうか。人と人との関わりが「全てではない」ということであった。「わたしと神仏」という関係の大切さに気付いた。「わたしとあなた」という人間関係では得られない超越的視点が与えられたし、さらには、「私中心の発想」から開放されて神仏や彼岸の視点から自分を見直すことも可能になる。宗教には現実からの逃避に見える面がある。その一方で自分を見出すという側面を持っている。 「逃げる」「退避する」という行為は人間が生命の危機に直面しながら獲得した大きな能力である。そしてそれは自分を他者の視点から見直す機会にもつながるのである。宗教も人間が生き残るために学んだ生命維持のシステムの一つと言える。特に生命が危機に直面したとき宗教が新しい生きる思考枠を与えてきた。コロナ禍で人は閉塞感に囚われた今だからこそ、三密を避ける(逃げる)ことで自分自身を見つけ直したり、人との繋がりの大切さに気付く機会としたい。 コロナ感染し苦しまれた方が早く回復されることを願いたい。また、愛する家族や友人を失った人もいると思う。コロナがもたらした被害、悲しみ、苦しみは計り知れないが、それを無駄にせず人類が生きるために新しい道をみつけ出す機会となるようにと祈りたい。 |
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J-HOPE4が発行されました | |||
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情報コーナー |
ホスピス・緩和ケアに関する新聞記事の紹介 |
・コロナ禍と「面会制限」・・・医療の意思決定 3回シリーズ コロナ禍で病院や施設での面会制限が続いている。特に緩和ケア病棟では、患者が最期まで自分らしく生きることのケアと感染予防という板挟みのジレンマがある。また延命治療の意思決定にも影響がでている。急性期病院、緩和ケア病棟、特別養護老人ホームにおける課題や工夫などを紹介した特集記事。 (読売新聞 2021/06/28〜30 連載) |
・うふふの「塩梅ノート」 100均でエンディングノートが買えるようになり、「終活」がよく知られているが、実際には中々書かないことが多い中、甲府市の在宅ホスピス医、内藤いずみ氏の「いい塩梅ノート」を紹介した記事。 (毎日新聞 2021/06/26 掲載) |
・巨大プラレールで、小児がん患者らを支援 京都伏見区のカフェ「トライム」に鉄道玩具プラレーあル」を展示し、小児がんや難病の子どもたちに喜びを与えたいとの思いで活動を続けている夫婦と、命よろこぶProject」活動をしている元看護師の働きを紹介した記事。 (毎日新聞 2021/06/15 掲載) |
・ためらう がん検診 新型コロナウイルスの影響で、昨年から、がん検診を控える人が多くなっているが、そのために手遅れになるケースもあり、がん検診を受けるメリットが大きいと検診の大切さを紹介した記事。 (毎日新聞 2021/06/09 夕刊掲載) |
・意思決定 「認知症 番外編」 4回シリーズ 自ら認知症であるが、支援団体を立ち上げ認知症の人でも意思決定が可能であることを訴え、 各地で講演活創をされている当事者や、認知症の方の意思をどのように尊重することに詳しい医師、 看護師を紹介した記事。 (読売新聞 2021/04/02〜07 連載) |
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