今月のコラム |
大阪市立大学名誉教授
ホスピス財団評議員 藤森 貢 |
疼痛とは? 「疼痛について述べよ」という医学概論試験問題を大学教養課程の学生に出したところ答案を見て驚いた。病ダレに冬だから「冬に起こる痛み」「リュウマチの痛み」等が書いてあり、白紙も多かった。医療に従事している者にとっては日常的に使用している言葉も通じないとショックを受けた。診療で何気なく使う言葉も通じていないことが多いものである。 米国で麻酔科医師として術前診察をした際に「明日、手術を受けられる時にAnesthesia(麻酔)を担当します」と説明しても理解してくれない人が多かった。「I will put you sleep tomorrow.」と言うと「Oh, I see」と言って感謝してくれた。 1846年10月18日にマサチューセッツ総合病院でW.Mortonがエーテル麻酔を行ったのが近代麻酔の幕開けである。その報告書にはInsensibility(無感覚)と書いてあり Anesthesiaという言葉は使用されていなかった。約百年以上経った米国で、Anesthesiaは一般の人には馴染みのない言葉であった。 日本では1804年、華岡青洲が全身麻酔を行った状況は乳巌治験録に「正気恍忼乎不識人事終身麻痺不覚痒痛」と記載されて麻酔という言葉は使用されていなかった。有吉佐和子作「華岡青洲の妻」の中で雲平(青洲)が京都から帰って父親に話す場面「儂は他人がよう直さんものを治せる医者になりたいんです。それが華佗になることやと思うんですわ。問題は麻酔薬の完成にあるんやないですか。」と小説では麻酔薬という言葉を使っているが、当時はこの言葉は存在しなかった。杉田玄白の孫の杉田成卿が約50年後にオランダ語の医学書を訳した際に「麻酔」という言葉を初めて記している。 それから約1世紀後の昭和40年頃でも日本の大新聞に「麻酔科」を「麻痺科」と書かれたこともあった。言葉や実績が認められるまでには長い年月が必要であり医学用語が病人には理解されないことが多い。 本年の日本麻酔科学会で「笑の現場から学ぶ!医療安全向上委員会」と題する吉本興業・Wマコト「中山真、中原誠」による講演があった。人と意思疎通を計る方法を伝授するというものである。笑福亭鶴瓶はどうして人の心を掴むか?答えは「笑顔」である。西川きよしがどうして吉本の頂点に上り詰めたか?答えは「誰にでも必ず挨拶をする」というクイズを我々に出した。「二人向かい合ってお互いに褒めあってください。」と聴衆に要求したので、私が隣の男性に「いいネクタイをしていますね」と言うと「肌がつやつやしていますね」と返してくれた。 最近の医者はコンピュータの画面ばかり見て、病人を見ないということに警告する講演であった。医療にとって重要なのは病人と如何にコミュニケーションを保つということであると肝に銘じた。 |
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Whole Person Care ワークショップのご案内 | |||||
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ホスピス財団 第3回 国際セミナーのご案内 “マインドフルネスに基づく医療の実践” (逐次通訳付) | |||
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2020年度 調査・研究助成募集のご案内 | ||||||
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「ホスピス緩和ケア白書2019」が完成しました | ||||||
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ホスピス財団ニュース36号が刊行されました | ||||||
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『新たな全人的ケア・・医療と教育のパラダイムシフト』 好評発売中 |
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情報コーナー |
ホスピス・緩和ケアに関する新聞記事の紹介 |
・最期まで穏やかに過ごす場を 料理研究家の枝元なほみさんが、仕事を続けながら脳疾患の父親を最期まで世話をした体験を紹介し、ある程度の経済力があったから出来たと語られる一方で、そうでない方々も多い現実もあるという戸惑いも感じられるという、考えさせられる記事。 (読売新聞 2019/07/03 掲載) |
・がん大国白書・・・患者100万人時代に備える 胃がんの発生に関係の深いピロリ菌を小児から検査・除菌療法の是非、内視鏡の是非、また手術後の食生活に関する療養を紹介。(3回シリーズ) (毎日新聞 2019/07/03・04・10 掲載) |
・武士の介護と看取り 江戸時代においては、武士であっても自分の親を看取ることが行われていたこと、また養生訓の最終巻では「介護する者の心得」が記されていることを紹介した記事。 (毎日新聞 2019/06/21 掲載) |
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