(公財)ホスピス財団 メールマガジン「今月のお便り」 vol.33
今月のコラム
 
川上 嘉明氏

東京有明医療大学
看護学部 准教授
川上 嘉明
  「差し控える」高齢者の看取りケア
 「そろそろ寿命が来たようです…。私が死んでいたら、まずお隣の〇〇さん、それから、(姉妹の)△△に知らせてください。△△が親戚に知らせてくれます。棺には、おまえたち兄弟二人の写真を入れてください。(遺影に使う)写真と一緒においておきます。…では元気でね、さようなら。体に気をつけて、ありがとう」。
 これは一昨年の初夏、一人暮らしのベッドの傍らひとりで逝った私の母の書き遺しです。心臓の大きな手術をし、80歳を過ぎた頃から年々目に見えて衰弱していました。そして、治療はもう結構、静かに逝きたいと言うようになっていました。書き遺しの封筒の上には、「延命治療お断り」とご丁寧に張り紙までしてありました。
 中村仁一医師(京都 同和園)は、「高齢者‘を’中心とした」ケアではなく「高齢者‘が’中心となった」ケアでなければいけないと言います。「母を中心」に周囲から考えると「自宅で誰にも看取られずに亡くなった独り暮らしの人」、つまり孤独死した高齢者となるのでしょう。コミュニティがスローガンとして掲げる「孤独死ゼロ作戦」においては失敗例です。しかし「母が中心」と考えれば、誰も保護責任者遺棄の罪に巻き込まず、早期発見による延命治療につながることもなく、思いのどおりの死であったのではないでしょうか。
 1週おきの週末には実兄が足腰の弱った母を訪ね、冷蔵庫に食べものを補充していました。自ら食べることを控えたのか、食べられなくなったのかはわかりませんが、それらには手がつけられていませんでした。私は地域の施設や在宅で、次第に食べなくなり、飲めなくなって死に至る高齢者の看取りケアを行ってきました。そうした高齢者の四肢には点滴による内出血の跡もなく、看取りは思いのほか静かに経過します。私の最期もそうありたいと考えるほどです。
 高齢者を中心とすると、見守る周囲の人たちは何かをせざるを得ない気持ちになります。食べない、飲めない姿を前に、「何もしないでいること」に耐えられないのは高齢者本人ではなく周囲なのでしょう。しかし、高齢者が中心であれば、本人が苦しくないようにそれらのケアを「差し控える」ことがもっと大切にされてよいのではないでしょうか。死を回避するためではなく、できる限り快適なものにするために、「差し控える」高齢者の看取りケアは重要であると考えています。
 
第8回 グリーフ&ビリーブメントカンファレンスが開催されました
 
 死別による悲嘆の研究から臨床実践までを含めた学術交流の場として、2017年2月4日(土)に龍谷大学 大阪梅田キャンパスにてグリーフ&ビリーブメント・カンファレンスが開催され、3名の講師の方々から、実例を交えての示唆に富む講演がなされ、有意義な一日となりました。

◎ 参加者 80名
 
第8回グリーフケア&ビリーブメントカンファレンスの様子
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第2回 Whole Person Care 国際学会が、2017年10月にカナダ、モントリオールで開催されます
 
第2回 Whole Person Care 国際学会 リーフレットの表紙    左記写真は 第2回 Whole Person Care 国際学会 のリーフレットの表紙です。
内容(英語表記)は、下記ボタンよりアクセスしていただければ、ご覧いただけます。(pdf)

 
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『新たな全人的ケア・・医療と教育のパラダイムシフト』 好評発売中
 
新たな全人的ケアの表紙  
 「Whole Person Care:A New Paradigm for 21Century」(Springer 社 2011年)の日本語訳として『新たな全人的ケア:医療と教育のパラダイムシフト』を青海社より全国で発売中です。
 Whole Person Careとはカナダ、マギル大学医学部で開発された、新しいケアの概念であり、従来の考え方を根本的に変えるアプローチです。
 是非、ご一読ください。
 
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情報コーナー
新刊紹介
 
小笠原医師のエッセイ集「診療所の窓辺から」を紹介したチラシ    高知・四万十の地で診療を続けている、小笠原医師のエッセー集が、4月下旬に発刊予定です。
 現在、予約受付中です。

 
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日本病院ボランティア協会研修会の紹介
 
日本病院ボランティア協会研修会のチラシ   テーマ:“これからの病院ボランティアとは”
日 時:3月16日(木) 13時~15時30分
場 所:大阪市立社会福祉センター第一会議室
参加費:無料

 
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ホスピス・緩和ケアに関する新聞記事の紹介
 
・医師と患者のコミュニケーションにおいて、医師がユーモアのセンスを持つことが必要であることを、落語の演題を例にして紹介した記事。
(毎日新聞 2017/2/15 掲載)

・ドクター元ちゃんこと、金沢赤十字病院の西村元一副院長が「がんを語る」講演会をされたことを紹介した記事。講演要旨と質疑応答が紹介されている。
(毎日新聞 2017/2/15 掲載)

・家族ががんになった場合、夫婦間の関係がうまく行かないとことも多いという問題を事例を通して紹介した記事。
(毎日新聞 2017/2/9 掲載)

・自宅や介護施設で最期を迎える人の割合が、地域によって異なることが厚生労働省の調査で分かったことを紹介した記事。
(読売新聞 2017/2/6 掲載)

・「死を受け入れるということ」と題して、映画監督の河瀬直美氏が、自らの体験を語った記事。
 動物の中で子の面倒を見るのは当たり前でも、親の面倒を見る生き物は人間だけだ”という言葉が面白い。
(毎日新聞 2017/2/5 掲載)

・垣添忠生先生が「地球を読む」シリーズで書かれた記事。膵臓がんなど難治性がんの早期発見の為の新しい検査方法の紹介と、一方で年齢によっては検査の是非を考えるべきという提言も記されている。
(読売新聞 2017/2/5 掲載)

・子どもの緩和ケアを取り扱う病院が少ない中、大阪、奈良、和歌山の14病院がネットワークを形成して対応を始めたことを紹介した記事。
(読売新聞 2017/1/29 掲載)

・「ドクター元ちゃん がんになる」連載記事。“神頼み”に対して科学的ではないと否定する医師もいるが、そんな患者の気持ちを受け止めることも必要であると提言している。
(毎日新聞 2017/1/29 掲載)

・人生の終幕を語り合う「デスカフェ」が欧米を中心に広まっているが、京都では、若い僧侶が中心となりデスカフェを開催していることを紹介した記事。
(読売新聞 2017/1/17 掲載)

・「生と死を問う」シリーズ。 五木寛之氏、青木新門氏、樋口恵子氏が“死を語る”をテーマにしたコラム記事。3回連載記事。
(読売新聞 2017/1/15・22・29 掲載)

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